オキシトシンは裏切らない!肥満や老化抑制から絆形成まで、健康の鍵となるホルモンの驚異
オキシトシンは裏切らない!肥満・老化抑制から絆形成まで

オキシトシン:健康と幸福を支える万能ホルモンの真実

私たちの体内で働くホルモンの一つであるオキシトシンは、20世紀初頭に分娩や授乳を促進する物質として発見されました。その後、信頼感を高める働きなどが明らかになり、「愛情ホルモン」や「絆ホルモン」として広く知られるようになりました。近年では、炎症や肥満を抑える作用も報告され、アンチエイジング効果が期待されています。

肥満抑制から糖尿病予防まで:体への驚くべき作用

福島県立医科大学の前島裕子准教授(神経内分泌学)は、オキシトシンについて「絆を作って社会性を高め、健康や心の幸せに寄与する。ウェルビーイングホルモンではないかと思っています」と語ります。前島准教授は、下村健寿教授(糖尿病・電気生理学)とともに、オキシトシンの働きを追究し続けています。

前島准教授がオキシトシンに着目したのは2009年。食欲抑制ホルモン「ネスファチン1」の仕組みを調べていた際、それがオキシトシンの分泌を促進して食欲を抑えることを発見しました。「ネスファチン1はアミノ酸82個の大きな分子で、ロットによって効き具合が異なりますが、アミノ酸9個のオキシトシンは安定で、絶対に裏切らない。そこがすごくよいと思い、のめり込んでいきました」と前島准教授は振り返ります。

研究では、オキシトシンが食欲を抑えて肥満症を改善するほか、インスリン分泌を促進することで耐糖能を高め、糖尿病を予防・改善する働きも解明されました。特に注目すべきは、肥満が進んだ体ほどオキシトシンがよく効くという成果です。下村教授は「レプチンという食欲抑制ホルモンは、太ると抵抗性が生まれますが、オキシトシンは太ると血中濃度が下がり、受容体が増えます。そこへ体外から投与すれば、よく効くのです」と説明します。

抗老化作用の解明:脳細胞の若返りメカニズム

前島准教授の研究は、肥満への効果から抗老化作用へと広がりました。肥満と老化は、低レベルの炎症が継続するなど似た面があり、オキシトシンも加齢に伴って血中濃度が下がります。昨年、オキシトシンを分泌する脳内の神経細胞について新たな成果が発表されました。

人間の35歳以上にあたる雄のマウスにオキシトシンを10日間点鼻すると、加齢で減っていた分泌細胞がかなり回復しました。細胞内の変化を詳しく調べたところ、加齢で衰えたDNAの働きを元に戻す酵素「TET2」や、細胞のエネルギー産生に必要なタンパク質「COX4」が増加。また、オキシトシンの分泌を抑えるタンパク質「Syt4」は、加齢に伴って増えていたのが減少しました。

前島准教授は「オキシトシンの点鼻によってTET2が増え、COX4も増えて、神経細胞が若い頃の機能を取り戻す。その結果、オキシトシンの分泌が増えるという好循環ができるのではないでしょうか」と説明します。血中では、オキシトシンが増加する一方、全身の炎症の指標となる物質が減少し、いずれも若い頃と同レベルに回復しました。

世界的権威も称賛:分子レベルでの裏付け

この成果は国際学術誌「エイジング・セル」に報告され、オキシトシン研究の世界的権威であるシャスティン・ウヴネース・モベリ博士(スウェーデン)らが1月末に論評を寄せました。「オキシトシンが、新生児から老年期まで生涯を通じて健康を制御する基本的な因子であることを、マエジマらのエレガントな研究が初めて分子レベルで裏付けた」と高く評価されています。

前島准教授は「うれしいですね。お会いしたこともない偉い方が、こんなに評価してくれて」と感激しています。オキシトシンは、単なる「愛情ホルモン」を超え、健康長寿の鍵を握る可能性を秘めたホルモンとして、さらなる研究が期待されます。