惣十郎浮世始末 巻之二 第292回:無尽燈の謎と左利きの筆跡が鍵
惣十郎浮世始末 第292回:無尽燈の謎と左利きの筆跡

「もう一枚は、窮理に詳しい医者に、無尽燈の仕組みを描かせたものです。この者は、お粂とも鍛冶とも面識はなく、ただ書物で学んだ仕組みを図にしただけです。この図から判断すると、お粂が作っていたものは無尽燈の類いだったと私は見ています」

惣十郎がこう説明するのを、志村は口を挟まずに聞いていた。やがて小さくうなり、眉間のしわを開いた。

「お粂がリュクトポムプという仕組みを知っていたのは、先ほど描かせた図からも確かかもしれない。しかし、お静の元にあった図が、捕縛前にお粂が描いたものと証明する手立てはない。鍛冶が描いたものについてはなおさら、お粂の考えたものとは言い切れないだろう」

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志村は慎重に検討する。無実の者を捕まえたのは廻方の過失だが、それを裁いて入牢を決めたのは吟味方だ。そう易々と落ち度を認めるわけにはいかないのだろう。

惣十郎は、傍らに置いた文箱からさらに数枚の紙を取り出し、志村に示した。弓浜が持っていた、お粂の描いた下書きである。

「お粂の描いた図には、ひとつの特徴があります。これは彦根の者が保持していた、かつてお粂が完成図を引く際に描いた下書きです。よく見ていただくと、筆跡の特徴が現れているかと思います」

志村だけでなく崎岡までもが図面を覗き込む。そして二人同時に眉をひそめた。

「墨の濃淡の箇所をよくご覧ください。縦線の一筆目の形も、お粂のものと鍛冶のものとでは異なります」

まばたきも忘れたように紙面を見つめていた志村が、はっと息を呑み、

「左利きか」

とつぶやいた。さすがは吟味方きっての出来物である。惣十郎は勢いよくうなずく。崎岡が戸惑ったように惣十郎と志村を交互に見やり、再び図面を覗き込んだ。

「もちろん、左利きはこの世にお粂一人というわけではありません。また、お静の元にあった図と彦根の者が保持していた下書きが、お粂がしたためた場を私がこの目で見たわけでもありません。しかし、リュクトポムプというめったに知る者のない仕組みをここまで綿密に描き、かつ左利きという特徴がある。この点を考慮に入れないのは、いささか無理があるかと思います」

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