甘く焼き上げた薄焼き卵で包まれた茶巾ずし、滋味深い切り干し大根。そして中央には、ほろ苦い風味が特徴のアユの甘露煮が堂々と鎮座している。この弁当を目にしたなら、女性運動家であり政治家でもあった市川房枝も、きっと満面の笑みを浮かべたことだろう。
故郷の味と好物を詰め込んだ特別な一品
この特製弁当は、市川房枝が愛した料理と、彼女のふるさとである愛知県一宮市の郷土食を丁寧に詰め合わせたものだ。2026年1月、市川も大きな貢献を果たした女性参政権実現から80年を記念するシンポジウムに合わせて、特別に用意された。
新聞記者時代の苦労と成長の軌跡
市川房枝は新聞記者としてのキャリアをスタートさせた頃、弁当箱を手に通勤する日々を送っていたという。当時はまだ新人記者で、取材先の門前で緊張のあまり足がすくんでしまうこともあった。後に女性の権利向上のために毅然と戦う運動家として知られるようになる彼女だが、その姿はこの時期にはまだ見られない。冷えた弁当を昼休みに食べながら、涙を流した日もあったに違いない。
たばこ形ラムネが添えられた粋な計らい
特製弁当には、愛煙家として知られた市川にちなんで、たばこの形をしたラムネ菓子も添えられていた。この小さな菓子を見つめながら、筆者はラムネのたばこを吹かしつつ、弁当を力に変えて東奔西走した若き市川の姿を思い描かずにはいられなかった。彼女のエネルギーと決意が、この一品からひしひしと伝わってくるようだ。
市川房枝の人生と功績を偲ぶこの弁当は、単なる食事を超えて、歴史の重みと個人の努力を感じさせる象徴的な存在となっている。女性参政権獲得への道のりを振り返りながら、現代に生きる私たちもその味わいを噛みしめたい。