嶋田美子個展「滅私|愛護」:ケアの倫理とファシズムの危うい境界を問う
嶋田美子個展「滅私|愛護」ケアとファシズムの境界を問う

ケアの倫理とファシズムの危うい境界を問う嶋田美子個展

近年、フェミニズムの文脈から発展した「ケアの倫理」という概念は、社会学や文学など多様な分野で広く議論されるようになりました。この倫理は、従来の正義や公平性とは異なり、個人の置かれた状況や具体的な相互関係を重視する点に特徴があります。しかし、美術家の嶋田美子(よしこ)は、現在開催中の個展「滅私|愛護」を通じて、このケアの倫理が注意深く扱わなければ、容易にファシズムに取り込まれてしまう危険性を訴えています。

相互依存が生む巨大な塊と暴力装置の内側

具体的な関係性の中に深くはまり込むことは、たとえそれが最初は互いの優しさから始まったとしても、個人主義を破壊し、自他の境界を溶かす可能性を秘めています。嶋田は、SFの初期から描かれてきたディストピア物語を参照し、ケアという行為が歴史的に暴力装置の内部に取り込まれてきた経緯を暗示します。つまり、暴力装置が「ケア」という言葉で飾られてきたとも言えるでしょう。

嶋田は、昭和天皇の崩御後、日本の元号が平成に変わって以降、国内外でフェミニズムの観点から表現活動や出版、アーカイブ収集などの研究を続けてきました。今回の展示は、1990年代半ばから彼女の個展を定期的に開催してきたオオタファインアーツで実施されています。

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戦時中の女性像と「Past Imperfect」シリーズ

展示の中心となる「Past Imperfect(過去不完了)」シリーズでは、戦時中の女性、特に国防婦人会の存在に焦点を当てています。タイトルの「滅私-愛護」は、戦中に頻繁に用いられた標語から引用されており、自己犠牲と保護を同時に示唆する言葉です。作品には、割烹着を着てピストルを構える女性たちの姿が繰り返し登場し、女学生が製作した風船爆弾が日の丸と重なるイメージなど、戦争と女性の役割を複雑に描き出しています。

この個展は大規模な回顧展というわけではなく、嶋田の活動全体を俯瞰するには限界があるかもしれません。しかし、これまで彼女の作品に触れる機会がなかったものの、興味を抱く人々にとっては、非常に批判的で意義深い空間となっています。作家を知るためには、必ずしも多数の作品が並ぶ展示が必要とは限りません。ほんのわずかな「きっかけ」から覗く風景として、この限られた空間に配置された立体構成を中心とした壁面作品群は、十分にふさわしいアプローチと言えるでしょう。

嶋田美子の作品は、ケアの倫理が持つ両義性を浮き彫りにし、現代社会における相互依存と個人の自律のバランスを問いかけます。戦争の記憶とフェミニズムの視点を交差させながら、過去と現在の連続性を鋭く提示する展示です。

嶋田美子個展「滅私|愛護」は、東京都港区六本木6の6の9 ピラミデビル3階のオオタファインアーツで、5月16日まで開催中です。日曜日、月曜日、祝日は休廊となります。詳細は電話03・6447・1123までお問い合わせください。

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