ペロブスカイト太陽電池の普及に必要な課題とは?東大・瀬川氏に聞く
ペロブスカイト太陽電池の普及に必要な課題とは

軽量で曲げられる次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」の実用化が加速している。業界を牽引する東京大学先端科学技術研究センターの瀬川浩司シニアリサーチフェロー(65)は、普及には変換効率と耐久性の両面でさらなる改善が必要だと指摘する。

次世代太陽電池に求められる性能

――次世代太陽電池に求められる性能は。

「工場や体育館の屋根、ビルの壁や窓など、これまで設置できなかった場所に設置できる『軽量性』や『デザイン性』が求められます。その上で、社会に普及させるためには安価で発電効率が良く、耐久性も必要です。最有力候補が日本発の『ペロブスカイト太陽電池』です」

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「既存のシリコン系太陽光発電は、日本の再生可能エネルギーの中心的存在ですが、近年、山林を切り開いて設置するメガソーラー事業者による環境破壊が問題視され、導入にブレーキがかかっています。都市部には建物の屋上や屋根など日当たりの良い場所が多くありますが、既存の太陽光パネルは重く、設置場所が限られています。軽量で曲げられる次世代太陽電池が普及すれば、再エネの導入を一気に増やせます」

ペロブスカイト太陽電池とは

――ペロブスカイト太陽電池とは。

「特定の結晶構造(ペロブスカイト構造)を持つ、『有機金属ハライドペロブスカイト』と呼ばれる半導体材料を用いて製造される太陽電池です。発電を行う層はわずか1000分の1ミリメートル以下の厚さで、太陽光を効率良く吸収し電力に変換できます。ペロブスカイトの原料の6割はヨウ素、3割が鉛、5%がメチルアンモニウムやホルムアミジニウムなどの有機化合物です」

日本の研究が基礎

――日本で生まれた経緯は。

「1972年に東京大学が国際科学誌ネイチャーに発表した『本多―藤嶋効果』が、太陽エネルギーを電気に変換する技術の基礎となりました。その成果をもとに、91年にスイスのマイケル・グレッツェル教授が色素増感太陽電池を論文発表。その色素の部分にペロブスカイトを使ったのが桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授らで、2009年に論文発表しました」

「ただ、この時点ではエネルギー変換効率は約3%で、電池の寿命も短かった。12年に産業技術総合研究所の村上拓郎氏と英国のヘンリー・スネイス教授が、ペロブスカイトを劣化させる原因となっていた電解液を固体化させることに成功。変換効率も耐久性も大幅に高まりました。ペロブスカイト太陽電池は、要所要所で日本人研究者がイノベーションを生み出して誕生しました」

――次世代太陽電池の技術開発を目指して09~14年に行われた内閣府の研究開発プロジェクト(FIRSTプログラム)で「中心研究者」としてチームを率いた。

「東大先端研が中核となり、宮坂氏らとともにペロブスカイト太陽電池の原理解明や高性能化を進めました。村上氏もこのプロジェクトのメンバーでした。その後もNEDOのプロジェクトで10年以上研究を続けています」

リサイクル可能に

――主原料のヨウ素は日本で供給可能だ。

「日本のヨウ素生産量は年間9000~1万トンに上り、世界生産量はチリに続く2位です。千葉県や新潟県で生産されています。政府は40年までにペロブスカイト太陽電池を20ギガワット導入する目標を掲げていますが、1ギガワットの発電に必要な原料はヨウ素約16トン、鉛8トンに留まります。国内製造だけでなく、世界需要に対応することが可能です」

――リサイクルは可能か。

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「主原料であるヨウ素・鉛の分離回収やマテリアルリサイクル技術の開発が課題です。溶剤を使って必要な成分を溶かし出し分離回収する技術を活用すれば、サーキュラーエコノミー対応も可能になると見込んでいます。現在、NEDOのプロジェクトでリサイクル技術開発に取り組んでいます。ペロブスカイト型はシリコン型と比べて10分の1以下の重量。廃棄したとしても量が少なく、ヨウ素や鉛などの有価物を原料回収できるので、全体としてはリサイクルの費用を減らせます」

フィルム型やガラス型

――企業が量産化を準備中だ。

「積水化学工業は、27年度にも生産を本格開始します。パナソニックやアイシンなども自社施設の他、店舗や公共施設などに自社製品を設置し、実証実験に取り組んでいます」

「積水化学工業の製品は、自在に曲げられ曲面への設置などに適しているフィルム型です。ロール状に巻かれた素材に印刷してから裁断する『ロール・ツー・ロール』技術を用いて製造しています。アイシンは、耐久性を高めやすいガラス型を開発中です。非常に薄いガラスを使い、軽量化も同時に実現しています。パナソニックもガラス型で、建材用のガラスにペロブスカイト太陽電池を埋め込んだ製品の開発に取り組んでいます。その他にも宇宙用の電源など、複数企業が様々な用途で開発に取り組んでいます」

世界最高レベル達成

――現状の性能は。

「(瀬川研の)最新成果で変換効率は世界最高レベルの27.2%を達成しました。シリコン型と遜色ない効率です。ただ、それは『セル』と呼ばれる0.18平方センチメートルの小さなサイズの話。20センチメートル四方の『モジュール』となると私のラボでも20%程度です。メーカーの実用化レベルとなる30センチメートル四方以上のモジュールでは15%程度となります。しかも耐久性は10年程度です。シリコン型は製品によって性能が大きく異なるため一概には言えませんが、現状では変換効率・耐久性の点ではペロブスカイト型を上回ります」

「一般家庭に広く普及させるためには、モジュールで変換効率20%超、耐久性20年以上を達成することが重要です。各社はまだその領域に達していません。今後も引き続き、研究開発に力を入れる必要があります」

量産化技術も欠かせず

――具体的な課題と解決策は。

「耐久性の低さの原因の一つは、空気中の水分です。水分にさらされると変換効率が大幅に下がります。各企業は封止材料やガスバリアフィルムの開発に取り組んでいます」

「量産化の技術も高める必要があります。ペロブスカイトの薄膜を均一に大面積化するための塗布技術や、結晶性の改良、周辺素材の改良を進める必要があります」

日本の強みは総合力

――世界から見た日本の現状は。

「中国が研究者数で圧倒的優位です。日本では大学や企業で約500人いるのに対して、中国は約5万人が研究開発に取り組んでいると言われています」

「日本の強みは『総合力』です。素材の品質や製造装置の性能、製造現場での確実な作業など、ものづくりに不可欠な様々な要素に穴がありません」

――2040年までに20ギガワット導入する政府目標は実現可能か。

「課題は多いですが、国内企業と連携しながら、実現に向けて研究開発を進めています」

――研究開発が停滞した時の対処法は。

「基礎科学に立ち返り、薄膜の内部構造や添加する材料の物性、劣化が起こった場合の原因を知ることが重要です。東大先端研は24年、日立製の超高分解能顕微鏡をペロブスカイト太陽電池の研究用に設置しました。この装置を使って原子レベルの微細構造を確認することで、新しい発見が生まれています」

企業研究者を支援

――アカデミアの役割は。

「私は、イノベーションのハブになることを常に意識しています。共同研究している企業の数が非常に多いですが、分け隔て無く対応することを心がけています。企業の依頼で物質の詳細な内部構造を調べたり、技術的に行き詰まった開発者の相談に応じたりもします」

「また、多くの企業研究者を研究室に受け入れ、ペロブスカイトに関する基礎知識や技術が身につくよう協力してきました。近年は知財管理が厳格化し、企業間で意見交換することが難しくなっています。アカデミアの立場から、協力できることは多いです」

「ほぼボランティアの仕事も多いですが、日本発のペロブスカイトを実用化させるためには、そうした役割を担う存在が必要だと信じています。今春からは複数の大学で客員教授として講義を行っています。太陽電池開発に携わる研究人材を増やすため、研究の魅力を他大学の学生たちにも伝えていきたいです」

――瀬川研出身の研究者が、ペロブスカイト太陽電池開発を手がける大手各社で活躍している。人材育成で心がけていることは。

「研究室では予算や装置の制約なしに、思い通りに研究できる環境を整えることを重視しています。私が研究室の大きな方針や目標を示した上で、学生や研究員に自由な裁量で試行錯誤してもらってきました。自分自身で考え工夫するのと、人から細かく指示を受けるのとでは、やる気も成果が得られた時の達成感も大きく異なります」

――ペロブスカイトが普及したら、どこに設置したいか。

「自宅の屋根に置きたいです。我が家の屋根は少し複雑な構造をしているため、シリコン型の太陽電池が設置しづらいですが、ペロブスカイト型なら置けそうです」