「失礼」
金ボタンは遮り、砂糖煮の娘の耳元で「いいかげん寝る時間だ。ジャム瓶が待ってるぞ」と呟いた。新聞を前に眠くなっていた砂糖煮の娘はこれを好機と捉え、「金のパパ、おやすみなさい!」と金ボタンの頬にキスをし、地下への螺旋階段がある厨房へと駆けていった。
金ボタンは砂糖煮の娘の小さな後ろ姿を見送ると、「こちらの新聞はすべてお部屋にお届けしますね」と儀礼的な笑みを兎耳に向けた。
「もう少し雑談がしたいのだけどな」
「どうぞ、どうぞ、私どもに拒否権はありませんので。ただ、お客様を立ちっぱなしにさせてしまうのは……」
「金のパパということは、銀のパパもいる?」と兎耳が金ボタンを覗き込んだ。
「お嬢様の言葉遊びですよ」
「君たちは彼の妹と親しかったよね?」
彼というのが、鳥の巣を指すことは金ボタンにもわかった。
「写真を見たが、かなりの美人だったね。このホテルに彼ら兄妹を匿っていた時、妹の方は地下の隠し部屋にいたと聞いた。ずいぶんと広い空間で、地下道にも繋がっているとか」
「おそらく勘違いをされているかと思います。確かに、地下で過ごしていただいていた時期はありましたが、空襲から逃れるための防空壕です。戦争の終結と共に埋めました。ホテルのあちこちに作った隠し部屋も同様に。万が一、お客様が迷い込み怪我をしてしまってはいけませんし、もう必要ないものですからね」
煙と考えた嘘を金ボタンは口にした。
「いやいや、そう警戒しないで。地下室をJ以外に……例えば軍とかに提供していたんじゃないかなんて疑っているわけじゃないからさ」と、兎耳は金ボタンの肩を笑いながら叩いた。「大きな疑惑は私の手には負えないからね。彼の妹が書いた手紙や日記でも残っていたらありがたいと思っただけなんだ」



