連載:FOOD発見 深掘り「炊かなきゃ気がおさまらない」イカナゴのくぎ煮のピンチに人々は
イカナゴのくぎ煮は、ご飯のお供として長年愛されてきた。地元の魚の漁解禁は季節の訪れを告げ、食卓がいつもより賑わう。地域だけで親しまれる小魚には、暮らしに密着した味がある。しかし、水産資源の減少に直面し、その影響を受けている。海に囲まれた列島ならではの楽しみを手放したくない。まずはイカナゴのくぎ煮から見ていこう。
春の約束:お彼岸のお墓参りに持っていく
イカナゴのシンコ(稚魚)は、播磨灘から春を告げる便りだ。甘辛く煮たくぎ煮は格好のご飯のお供で、一説には茶色の見た目が古釘に見えることからそう呼ばれるようになったという。
2年前の4月、本紙「ひととき」欄に「イカナゴ初日」という投稿が掲載された。兵庫県の漁獲量は26トンで、前年の1千トン台から急減し、過去最少となった年だ。
「庶民の味がいつしか、高級魚になってしまった」。くぎ煮への思いをつづったのは、同県川西市の朝倉恵子さん(73)。解禁日、かつてない品薄と高値に驚き、夕方のニュースで漁が即日打ち切りになったことを知った。手に入れた魚を「大事に炊いた」と結んでいる。
今年の状況は?
話を聞きに行くと、「1キロだけ炊きました」とのこと。解禁の3月17日、夫がスーパーをはしごして探したそうだ。1キロが7千円。漁獲量を確保するために漁を遅く始めるため、魚のサイズも大きい。ピンとした理想の「釘」の姿には仕上がらない。
「それでも作るのは、自分の気持ちがおさまらないからでしょうね」と朝倉さんは語る。
朝倉さんがイカナゴを炊き始めたのは、結婚してから。実家では母が作っていたが、自分で作るようになってからは毎年欠かさず炊いている。しかし、最近は漁獲量の減少で手に入りにくくなり、価格も高騰している。それでも、春の訪れを感じるために、そして家族に食べてもらうために、作り続けている。
くぎ煮を取り巻く現状
イカナゴの漁獲量は年々減少しており、2024年には過去最低を記録した。原因としては、海水温の上昇や餌の減少、乱獲などが指摘されている。漁業関係者は、持続可能な漁業を目指して努力を続けているが、根本的な解決には至っていない。
一方で、くぎ煮を愛する人々は、高値でも購入し、手間をかけて調理している。SNSでは「今年もくぎ煮を炊いた」という投稿が多く見られ、伝統の味を守ろうとする姿勢が感じられる。
地域の小魚を未来へ
イカナゴのくぎ煮は、単なる料理ではなく、地域の文化や季節感を象徴する存在だ。漁獲量の減少は、食文化の存続にも影響を与えかねない。しかし、人々の思いや努力によって、その味は未来へと受け継がれていくことだろう。
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