漫画家・眉月じゅんさん、九龍城塞舞台の全12巻完結「キャラが旅立った感覚」
眉月じゅんさん、九龍城塞舞台の全12巻完結「キャラが旅立った感覚」

「東洋の魔窟」と呼ばれた香港・九龍城塞を舞台にした眉月じゅんさんの『九龍ジェネリックロマンス』(集英社)が全12巻で完結した。夏の日差しと騒々しい街に彩られ、どこか懐かしく謎めいた恋模様を描く。九龍に差す光の表現とキャラクターたちの日常が生きている。(宮嶋範)

九龍舞台、謎めく恋物語完結

白黒のコマが、きらめいて見える。真夏の光が、雑然とした建物の濃い影が、鮮やかな色彩を生み出している。「色というよりも光なんです。光の強さと、差し込む方向はすごく意識しています」と眉月さん。

『九龍』では、光の表現を考え抜いた。朝の日差しが窓から差し込むように、不動産会社に勤める主人公・令子が住む部屋の窓の方角も決め、場面ごとの光源の位置も厳密に定めていた。

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劇中の九龍は、なぜか夏を繰り返し、上空には不可思議な建造物が浮かぶ。令子はある事情で記憶がなく、令子が思いを寄せる同僚の工藤も消えない過去の傷を抱えている。

哲学的テーマ

連載を始めた時、挑戦してみたかったのは、哲学的な問いだった。「自分はどこから来て、どこへ行こうとしているのか。それを思い出して、また進み始める」。過去と現在、未来が入り交じるテーマに、以前から温めていた九龍城砦というモチーフが結びついた。

虚実が入り交じる幻想的な展開は「SFというつもりではなくて、キャラクターたちの日常生活を描きたかった」。スイカを食べ、たばこを吸う。たわいもない会話で笑い、泣く。そんなごく普通の日常を丹念に拾った。

主人公たちが住む区画は、九龍では比較的整備され、他の地域との差が少ないエリアに設定した。編集者から「九龍にしてはきれい過ぎないか」と指摘されたが、「私たちと変わらないことで思い悩み、喜んだり悲しんだりして生きてるって描きたかったんです」と眉月さん。

生まれ育った横浜の繁華街もどこか頭の中にあった。幼少期をこの地で過ごしたと言うと、さぞ非日常の空間だったのだろうと思われがちだが、「同じようなことで悩んで、同じような生活があった」。九龍城砦で何げない日々を過ごす人たちには、いつもシンパシーを抱いていた。

前作『恋は雨上がりのように』は、女子高生と中年のファミレス店長の交流を鮮やかに切り取り、注目を集めた。ミステリアスな『九龍』は雰囲気をがらっと変えたようにも見えるが、「私の中ではそんなに違わないです」。『恋雨』の登場人物も、自らの胸の内を見つめ直し、また歩き始める。作品に向かう上の主題は一貫していた。

6年以上に及ぶ連載を終え、最終巻では、それぞれの人物が新たな一歩を踏み出していくまでを描ききった。今の心境を、「キャラクターが自分の中から旅立ったっていう感覚が一番ぴったりかな」と語る。

同時にやはり感じている。「漫画家って何作も手がけている人でも、テーマって一つだと思うんですよ。『人はどこから来てどこへ行くのか。本当の自分とは何か』が一生のテーマなんです。それを描き続けていくんだと思います」

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