高円寺ストリートの再開発で昭和レトロが消える危機 商店街の個性が失われる懸念
高円寺ストリート再開発で昭和レトロ消滅の危機

高円寺ストリートの再開発で変わりゆく街並み

東京・杉並区の高円寺は、サブカルチャーの街として知られるが、その中心にある高架下商店街「高円寺ストリート」が大きな転換期を迎えている。1966年の開業以来、約60年にわたり独特の雰囲気を保ってきたこのエリアが、老朽化対策のための再開発により、建て替え工事が計画されているのだ。

昭和の面影が残る商店街の現状

JR高円寺駅から阿佐ケ谷方面へ約200メートル続く高架下には、年季の入った居酒屋やスナックが連なり、天井からは配線がのぞいている。ほの暗い蛍光灯に照らされた雑多な空間は、まるで昭和時代にタイムスリップしたかのような雰囲気を醸し出している。

駅近くの区画は3年前に「高円寺マシタ」として改装されたが、その奥側は開業当時の姿をほぼそのまま残している。雑貨店やバー、ライブハウスに加え、「日本一安い0円餃子」をうたう個性的な店舗も存在する。しかし、こうした昭和レトロと若者文化が融合した高円寺らしい光景も、近い将来に見られなくなる可能性が高い。

再開発の背景と進捗状況

電気設備や水道管の老朽化を理由に、2026年4月以降の建て替え工事が予定されている。店舗を管理するジェイアール東日本都市開発の担当者は「万が一火災が発生した場合、電車の運行にも重大な影響が出かねない」と説明する。

まず阿佐ケ谷寄りの区画から工事を開始する計画で、対象となる18店舗には2026年3月末での契約終了が通告されている。すでに半数近くの店がシャッターを下ろし、「再開発に伴って閉店します」との張り紙が目立つ状況だ。

店主たちの複雑な思い

玩具店「ゴジラや」の店主、木澤雅博さん(71)は約40年前に同店を開業した。もともと高円寺で居酒屋を営んでいたが、店に置いていたおもちゃが好評を博し、専門店として独立した経緯を持つ。テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」で鑑定士を務めたことで全国的に知名度を高めた。

木澤さんは2年前に再開発計画を知らされ、「高円寺らしさが失われる」と危機感を抱いた。中止を求めて約500人分の署名を集めたが、計画は変更されなかった。やむなく提示された移転先での営業継続を検討しているが、納得はしていないという。

「ここの魅力は、人々の長年にわたる営みが生み出した景色です。再開発によって、どこにでもある街になってしまうのではないかと心配しています」と木澤さんは語る。

名物食堂の苦悩

1988年開店の名物食堂「ラーメン&カレー タブチ」の店主、田渕玲さん(60)も同様の思いを抱いている。4年前に夫の秀治さんが他界してから、常連客の励ましに支えられながら店を切り盛りしてきた。

「最後までここで、お客さんと一緒に楽しくやっていきたかった」と田渕さんは心情を明かす。店先には秀治さんの写真と、客が自由に書き込めるノートが置かれており、「愛らしいこの場所で、もう食事できないと思うとさみしい」といった惜別の声が寄せられている。

地域のアイデンティティの行方

高円寺ストリートの再開発は、単なる建て替えではなく、地域の歴史と文化の継承という課題を浮き彫りにしている。昭和レトロな店構えと若者向けのサブカルチャーが混在する独特の空間は、計画的に再現できるものではない。

商店街の関係者や地域住民の間では、安全性の向上と歴史的景観の保全の両立をどう図るかが大きな課題となっている。再開発後も高円寺らしい個性を維持できるかどうかが、今後の焦点と言えそうだ。

東京の街並みは絶えず変化を続けているが、その過程で失われるものの大きさを、高円寺ストリートの事例は如実に示している。地域の記憶と新たな発展のバランスをどう取るか、都市計画における普遍的な課題がここにも存在する。