インディーゲーム『グノーシア』ヒットの秘密 退屈な会議から生まれた“ひとり人狼”
インディーゲーム『グノーシア』ヒットの秘密 退屈な会議から

インディーゲーム『グノーシア』が話題を呼んでいる。一人で楽しめる人狼ゲームという斬新なスタイルで、2019年にPlayStation Vitaで発売されると、ダウンロードソフトランキングで1位を獲得。口コミで高評価が広がり、ロングヒットとなった。その後、ニンテンドースイッチなどにも移植され、2025年にはアニメ化も果たし、さらに注目を集めている。2026年3月にはiOS/Android版の配信も開始された。本作を手がけたのは、名古屋の4人からなる開発集団「プチデポット」。ヒットの裏側を、プロデューサーの川勝徹氏に聞いた。(取材・文 共同通信=高坂真喜子)

人狼のハードルを下げる

『グノーシア』は、宇宙船を舞台に、乗組員の中に紛れ込んだ未知の敵「グノーシア」を見つけ出すゲームだ。プレイヤーは乗組員としてグノーシアを探すか、あるいはグノーシアとして正体を隠しながら乗組員を襲う。川勝氏は、人狼ゲームの面白さを初心者にも届けたいと考えたという。

「人狼のゲームシステムは面白いが、いきなり知らない人たちと一緒にやるのはハードルが高い。私たちはカジュアルに楽しめるように改良しようと考えました。頭の良いキャラクターを作ることもできますが、初心者には厳しいし、面白さを理解するまでに時間がかかります。集団の遊びの中で、合理的で最適な行動ばかりしていると予測されやすい。それよりも、それぞれのキャラクターの性格や個性が反映された方が楽しいのです」

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14人のキャラクターには一人ひとりに特性があり、デザイン担当の「ことり」さんが性格に合わせてパラメータを割り振っている。「集団で何かをする時、場を和ます人や賢い人など、いろんな人がいるといい。性格のとがったキャラクターの方が面白い」と川勝氏は語る。

プレイ中に発生するイベントを追い、キャラクターを深く知ることで物語が進む。「ずっと人狼ゲームばかりだと飽きてしまうので、シナリオを入れて先が気になる展開にし、クリア条件を設けてキャラクターの背景を知るなど、長く楽しめる工夫をしています」

15分で人狼と人間ドラマ

キャラクターは割り当てられた役割に沿って発言、行動するが、性格や能力、好感度、他者への信頼度などの内部パラメータがあり、毎回異なる議論が展開される。川勝氏は、このゲームの着想について「仕事の会議や打ち合わせはあまり楽しいものではない。なぜみんなが意見を言わないのか、何を思っているのか、どこに向かっているのか整理しようと考えながらだと、前向きな議論になり、魅力的な会話劇になるのでは」と話す。

ゲーム内の会議では、キャラクターがまるで人間のように振る舞う。川勝氏は「人間が相手をどう思っているかを、信頼しているか疑っているか、嫌いか好きかの二軸で分けた時、嫌いで疑っているのは完全にグノーシアだと思っているし、人間的にも嫌いだから最悪。『あの人は私が大好きで、絶対人間だと思っていて信頼している』というのが一番いい。でも、ドラマで一番盛り上がるのは、『絶対人狼と思っているけど好き』という状況や、逆に『あいつすごく嫌いだけど人間なんだよね』という状況。だから『グノーシア』でも信頼や好き嫌いのパラメータが議論を通じて変動し、深い人間関係が生まれる。約15分という短い時間で人狼と人間ドラマが味わえるのです」と説明する。

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現実の仕事と同じ「巻き込まれ型」

ゲーム内で誰がグノーシアかを投票する際、理屈に関係なく嫌いなキャラに投票するキャラもいる。川勝氏は「キャラクターたちは、あの世界の中で人狼ゲームだと認識して議論しているわけではない。たまたま宇宙船にグノーシアという敵がいるから、コールドスリープさせたいだけ。そうなると、これまでの環境から好き嫌いで選ぶだろうし、人間臭さを生かすことで、プレイヤーは『このキャラは感情優先だな』『変なことするな』と感じる。それが会議や人間関係の縮図、社会の縮図だと思います」と語る。

テストプレーはメンバー4人で約6000回行った。「完全な設計書を作ってから作るのではなく、粘土をこねるように作って壊してを繰り返しました。画面の切り替えが遅いなどの細かい修正や、強めのイベントが必要だと感じたら追加し、当初よりイベントが大幅に増えました。このゲームの特徴は、高いレベルにならない限り自分で議論をコントロールできない点です。極端なことを言えば、ボタンを連打しても議論が進み、他のキャラが勝手に投票して、自分が何もせずに勝つこともある。プレイヤー巻き込まれ型のゲームです。現実でも、仕事でいきなり会議に入って訳も分からないまま進むことがある。そういうリアルな体験をゲームに反映しています。事件は突然起こるのです」

ストーリーはシナリオライターの「しごと」くんが中心となって書き、デザイナーの「ことり」さんや川勝氏の意見も取り入れながら磨き上げた。「SFのゲームは今の時代、なかなかない。SFが面白いと知らない人にも魅力を感じてもらえたらうれしいです」

ガラケー向けゲームで培った挑戦心

川勝氏は幼い頃からゲームを作りたいと思っていた。「喫茶店に『インベーダーゲーム』があり、幼稚園の時に初めて遊び、テレビは見るものだと思っていたのに映っているものを動かせる感動を味わいました。そこから夢中になりました。しかし当時は作り方が分からず、ファミリーコンピューターも発売前でゲーム機もありませんでした。大学生の時、ゲーム会社に就職しようと思いましたが、一般の大学には開発の求人がほとんどなく、工作機械メーカーで営業の仕事をし、1年働いてお金をためて退職しました。ちょうどゲーム専門学校が増えてきた時期で、入学してゼロから2年間プログラムを勉強しました。絵も音楽も一人で全部作れという学校で、朝から夜まで自習し、仲間と切磋琢磨しました」

卒業後は地元のゲーム会社「T&E SOFT」に入社したが、半年で倒産。その会社の同期がプチデポットのサウンド担当「Qflavor」だ。その後、携帯電話(ガラケー)向けゲームの事業を立ち上げる会社に転職し、50キロバイトや500キロバイトの少ない容量のゲームを手探りで作った。「当時の携帯アプリはグラフィックの色数も少なく、工夫しないと動きませんでした。開発費や人件費も低く、1~2カ月で作らなければならず、オリジナルゲームをたくさん作らせてもらいました。何でも挑戦させてもらったのが良い経験になりました」と振り返る。この会社にアルバイトに来たのが「しごと」くんで、後にプチデポットを結成する際に友人の「ことり」さんを連れてきた。

ライバルはクリエーター全員

独立した理由について、川勝氏は「スマートフォンが登場し、一般の人でも自分で作ったゲームをストアに出せる時代になりました。企業としては出せば売れないといけないが、趣味で作っている人が参入してくる。コスト関係なく、趣味で何百時間も作っている人たちと戦わなければならず、しかも安く出す。これはまずいと感じました。10年ほどゲーム会社でアプリや家庭用ゲームを作りましたが、参入障壁が一気に下がり、ライバルが一般のクリエーター全員になってしまった。勝負するなら本当に面白いものを考えざるを得ないと思い、それぞれフリーランスで活動していたメンバーと合流してチームになりました」と語る。

ゲーム制作には資金がかかるため、生活費を稼ぐためにさまざまな仕事を並行して行った。「今は専門学校でゲームデザインを教え、大学でも講師と研究員をしています。仕事の領域が重なった方がいい。ゲームを作る時、プレイヤーが求めていることを知る意味で、専門学校にはゲームを作りたい学生が大勢いるので、今の18~21歳の子たちが何に夢中になっているかを体感できます。教えたいこともあれば、教わりたいこともあります。兼業しなければ、『グノーシア』の4年間の開発費はまかなえなかったでしょう」

プチデポットの他のメンバーについて、川勝氏は「今はほぼ専属です。サウンド担当のQflavorはいくつか仕事を好きでやっていますが、プログラマーとデザイナーはほぼずっと作り続けないといけない。特にこのゲームは作って直して作って壊しての繰り返しで、途中で別の仕事が入ると頭から抜けてしまう。集中力が欠けないように、デザイナーとプログラマーだけは集中してずっとやれる体制を整えました」と説明する。

次回作については「まだ考えていません。みんな、遊びたいゲームはあるけど、まだないという状況になれば作ろうかなと思います。何かに追われて作るのではなく、もっとフラットな気持ちでものづくりに関わっていきたいです」と語った。