マイナ保険証の「欠陥」 視覚障害者を阻むカードリーダー問題
昨年12月に健康保険証がマイナ保険証を基本とする仕組みに移行したが、視覚障害者への対応は依然として不十分な状態が続いている。東京都町田市に住む全盲の男性は、医療機関でマイナ保険証の読み取り機を操作できず、「暗証番号を同行者に口頭で伝えざるを得なかった」と明かす。厚生労働省は病院職員らによるサポートを促すが、その周知は進んでおらず、多くの現場で戸惑いが生じている。
プライバシー侵害のリスク
この男性は会社員の川田隆一さん(65)。昨年12月、町田市のクリニックでマイナ保険証を初めて使用した際、顔認証付きカードリーダーを自力で操作できなかった。受付の職員には支援を頼めず、付き添っていた人に暗証番号を伝えて押してもらったという。川田さんは「障害者のプライバシーは軽いんでしょうか」と疑問を投げかける。
マイナ保険証は、データベースにある健康保険の情報をカードリーダーで引き出す必要がある。自力で操作できない場合、暗証番号を他人に伝える場面が生じかねない。厚労省の担当者も、病院職員らに対し暗証番号を伝えることは「適切とはいえない」と指摘するが、現状では改善策が十分に機能していない。
音声案内の欠如と代替手段の課題
根本的な問題は、現行のカードリーダーに音声案内が必須とされず、視覚障害者には非常に使いづらい点だ。顔認証の位置を自力で合わせられず、認証されたかどうかも分からない。タッチパネル式のため、暗証番号入力では数字の場所すら把握できない。
厚労省は代替手段として、病院職員らがマイナンバーカードの顔写真を目で確認する「目視確認モード」を推奨している。このモードを使えば、顔認証や暗証番号入力を省ける。しかし、川田さんが今年1月に別のクリニック2カ所や薬局で目視確認モードを希望した際、職員が知らなかったり慣れていなかったりして利用できなかった。
日本視覚障害者団体連合の三宅隆常務理事(53)は「現場に戸惑いがまだまだある」と周知不足を指摘し、「欠陥状態を早く改善してほしい」と訴える。目視確認モードは昨年4月に簡便式が利用可能になったが、昨年9月時点でパスコードを取得した医療機関・薬局は約6割にとどまる。
今後の改善策と課題
厚労省の担当者は不十分さを認め、今夏までに発売される次期カードリーダーでは音声案内を設ける予定だ。2025年度補正予算では、機種変更を後押しする補助金も新設した。しかし、視覚障害者の暗証番号入力に必要なキーボード型の機器は「強く推奨」止まりで、標準搭載ではない機種も存在する。医療機関などがキーボード型付きを選ばない可能性があり、機能が固まっていない機種もある。
導入も一斉ではなく、機器更新時に進む見込みで、完全な解決には時間がかかりそうだ。川田さんは3年ほど前からマイナ保険証を持ち、マイナポータルアプリの便利さを実感してきた。処方された薬の情報を音声で聞ける点を評価する一方、「見える人と同じように、普通に制度の良いところを享受したい」と願っている。
マイナ保険証の普及が進む中、視覚障害者を含むすべての利用者が平等に恩恵を受けられるよう、早急な環境整備が求められている。