連載:憲法を考える インタビュー
日本国憲法は前文で平和主義と国際協調を掲げ、9条で具体化していると政府は説明してきた。前文では何が語られ、この混沌の時代にどう生かすべきか。憲法制定過程の研究を続ける古関彰一・独協大学名誉教授に聞いた。
前文の「決意」を実現するために
――いま、憲法前文のどこに注目していますか。
「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免(まぬ)かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」というくだりです。
敗戦後の日本を占領した連合国軍総司令部(GHQ)の草案を基に、日本政府が修正を加えて成立した憲法。前文は、国際社会における日本の役割と国民の決意を力強く表現している。しかし、現実の政治は必ずしもその理念に沿って動いてきたわけではない。
古関名誉教授は、前文の「恐怖と欠乏からの自由」という理念が、今日の安全保障や経済格差、気候変動といった地球規模の課題に直面する中で、改めて重要な意味を持つと指摘する。
「憲法前文は単なる理想ではなく、具体的な政策の指針となるべきものだ。しかし、政府はこれまで前文の精神を軽視し、9条の解釈変更や安保法制の強化など、憲法の理念に反する政策を進めてきた」と古関氏は批判する。
憲法制定過程から見る前文の意義
古関氏は長年、憲法制定過程の研究を続けてきた。その研究によれば、前文の起草には、戦争への反省と平和への強い決意が込められているという。
「前文の『われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う』という一文は、日本が国際社会の一員として積極的に平和構築に貢献する決意を示している。これは、単なる受動的な平和主義ではなく、能動的な平和創造の姿勢だ」
しかし、現実には自衛隊の海外派遣や集団的自衛権の行使容認など、憲法の理念と矛盾する政策が積み重ねられてきた。古関氏は「前文の決意を実現するためには、私たち一人ひとりが憲法の理念を理解し、政治に反映させていく努力が必要だ」と訴える。
混沌の時代にこそ立ち返るべき原点
現在、世界ではウクライナやガザでの紛争、米中の対立、気候変動の深刻化など、多くの課題が山積している。こうした中で、日本国憲法の前文が掲げる「平和のうちに生存する権利」は、普遍的な価値として再評価されるべきだと古関氏は言う。
「憲法前文は、日本国民だけでなく、全世界の人々に対して平和と繁栄のビジョンを示している。このビジョンを実現するためには、政府の政策を批判的に検証し、市民の声を政治に届けることが重要だ」
古関氏は最後に、「憲法は『ガラス細工』のように脆いものではなく、私たちの不断の努力によって守り、育てていくものだ」と強調した。
(専任記者・藤田直央)



