特攻訓練の合図「チョー タン タン」が問いかけるもの 濵本奏作品展「-・・」
特攻訓練の合図「チョー タン タン」が問いかけるもの 濵本奏作品展

第50回木村伊兵衛写真賞受賞作品展が、ソニーイメージングギャラリー銀座で開催中です。写真家・木村伊兵衛(1901~74年)の業績を記念し、1975年に創設された同賞。節目の50回目は、濵本奏(2000年生まれ)が受賞しました。評価の対象となったのは、写真集『-・・(チョー タン タン)』と、横浜市民ギャラリーによる「U35若手芸術家支援事業」として開催された同名の個展です。

「-・・」の意味とは

写真集と展示タイトルの「-・・」は、長い、短い、短いというモールス信号で、「海底に到着」の合図です。日本軍が主導した軍事訓練で実際に使用され、海面に浮かんだガラスの浮き玉につながれた命綱を浅い海中から引っ張ることで、海面に合図が送られました。

特攻兵器「伏龍」の訓練

それは特攻兵器「伏龍」の訓練でした。潜水具を着用した兵士が浅い海底に立って待ち構え、棒付き機雷を敵艇に接触させて爆破する特攻戦法・伏龍は、実戦には用いられませんでしたが、第2次世界大戦末期、本土決戦に備えた最後の砦として実用化が目指されました。装備に多数の欠陥があり、多数の死者を出したにもかかわらず、訓練は強行されました。

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音が喚起する記憶

写真集『-・・』には、波や潜水の音と思われる環境音を録音したアナログレコードが付随しています。作家が慣れ親しんだ海辺を舞台に、かつての訓練を振り返る元隊員たちの「潜水服を着て面ガラスを閉めるときに聞こえるネジの音が忘れられない」「生きたまま棺桶に入れられるようだった」という言葉に触れ、視覚的なものよりも音のイメージが先に立ち上がったといいます。

展示空間での体験

受賞作品展ではガラス製のブイが振動と明滅の触媒となり、八十数年前に海中で展開された軍事訓練の記憶、「あちら側」からの震えを、「こちら側」の展示空間に響かせる機能を担っています。

写真の手法と意図

会場に展示された写真《-・・》からは、写真集とは異なる印象を受けます。モチーフの接写や、海を背景に後ろ姿の人物で遠近感を出す手法、対象物を抽象化して写真化する方法が強く目を引きます。これは、木村伊兵衛も深く関わった伝説のプロパガンダ・グラフ誌『FRONT』で多用された手法でもあります。かつての戦争写真との類似性は、作家があえてフィルムカメラを用いることの意味を際立たせます。それは即時性への抵抗です。

問いかけとしての「-・・」

東京・靖国神社の遊就館では精巧な伏龍隊員の縮小彫刻が展示されています。動員された少年兵たちや特攻兵器、その作戦は容易に美談にされ得ます。「-・・」は、かつてと今との距離、そしてその解釈をめぐる問いとして、「こちら側」にいる私たちに投げかけられています。(小田原のどか=彫刻家、評論家)

展示情報

濵本奏作品展「-・・(チョー タン タン)」は、東京都中央区銀座5の8の1、銀座プレイス6階のソニーイメージングギャラリー銀座(電03・3571・7606)で、7日まで開催中です。

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