回転ずしやスーパーの刺し身パックなどで人気のサーモン。旺盛な需要を背景に、中部地方などで大規模な養殖施設の建設が進んでいる。5月7日には世界最大級のアトランティックサーモン(タイセイヨウサケ)の陸上養殖施設が三重県津市で稼働する。運営会社のピュアサーモンジャパン(本社・東京)の関係者は「北欧産が大半を占める中、日本産サーモンの生産で業界地図を塗り替える」と意気込む。
総事業費約720億円、80基の大型水槽を設置
津市西部の山林を切り開いた約13万7千平方メートルの広大な敷地に、総事業費約720億円をかけて複数の建屋が設けられる。一部の棟が完成し、残りも急ピッチで工事が進んでいる。建屋内部には、直径4~24メートルの大小さまざまな計80基の大型水槽が設置される計画。5月から魚卵が注入され、サーモンが回遊しながら育つことになる。
年間1万トンの生産能力、すでに契約完了
「すでに生産可能な1万トン分の契約が完了した」。ピュアサーモンジャパンのエロル・エメド社長が語った。年間1万トンは国内の海面で養殖されるサーモンとほぼ同量に匹敵する。総合商社の伊藤忠商事などと卸売りの契約を交わし、津の施設でサーモンの出荷が始まり次第、各地へ販売していく。販売価格は輸入サーモンと同じ水準を想定する。
サーメン人気は15年連続1位、需要は増加傾向
国内で人気のサーモン。水産業「ウミオス」(旧マルハニチロ)の調査によると、回転ずし店で「よく食べるネタ」として15年連続の1位。トルコ出身のエロル社長は「老若男女が好きなネタ。今後も需要は増す。外国からの問い合わせも多い」と説明。出荷前にもかかわらず、生産能力を超えた注文がさまざまな業界から寄せられている。
立地の理由は大都市圏への交通利便性
中東の投資家を中心に設立された外資系企業のピュアサーモンが国内最大の養殖施設の立地先として津市を選んだのは、大阪まで高速道路経由で約2時間など、関西や関東といったサーモン消費量が多い大都市圏への交通利便性の良さからという。
閉鎖循環式で環境負荷を低減
養殖方法は「閉鎖循環式」。高性能な浄水機器を使い、水をろ過して再利用するため他の方式と比べて大量の排水が出ない。サーモンの成長過程などで生じる廃棄物は施設内で、ペットフードにする方針で環境負荷を最小限にする。
抗生物質不使用、高品質が強み
国内では人口減による市場縮小が懸念されるが、同社は巨額投資に踏み切った。エロル社長は「衛生的な環境なのでサーモンには抗生物質やワクチンを使わない。海洋のマイクロプラスチックを含まない高品質さも強み。高鮮度で安定供給できる」と強調。「世界的な健康志向の高まりから持続可能性は十分」と話し、施設のさらなる拡張も視野に入れている。
専門家の見解:陸上養殖のメリットと課題
大規模な陸上養殖施設が増えている理由について、三重大の常清秀教授(水産経済学)は「海面養殖と比べて、天候や天敵、病害の影響はほとんどなく、サーモンの成育を管理しやすい」と説明。「地球温暖化でサケの漁獲量は30年間で6割ほど減っている。日本人は以前よりも回転ずしなどでサーモンをよく食べるようになった」と分析する。
ただ、陸上養殖にはコスト面での欠点がある。鹿児島大水産学部の佐野雅昭教授(水産経済学)は「水のろ過や水温の維持で多額の電気代がかかる。高まるエネルギーコストに左右されるため、採算面に課題がある」と指摘。海面養殖の出荷シーズンは4~6月ごろの期間限定だが、陸上養殖では年中出荷可能になる。この部分で黒字化できるかどうかが鍵になるとみる。
輸入サーモン価格は2倍に、国内生産に期待
日本人が食べるサーモンの9割がノルウェーやチリなどからの輸入品とされる。その価格は、円安や輸出経費の増大で直近の数年間で2倍になった。国内の各大型施設には、丸紅など資本力がある総合商社4社が関与。安定供給などの強みを発揮して利益を出そうとしている。



