大阪・関西万博が示した未来社会の鼓動 ネット時代のリアル交流と技術革新の可能性
万博が示した未来社会の鼓動 ネット時代のリアル交流と革新

ネット時代の万博で交錯した情報とリアルな交流の価値

「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに開催された2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)には、160を超える国・地域や国際機関が参加し、2557万人の一般来場者が訪れた。コロナ禍後初の国を挙げての大規模イベントとして、政府推計では経済波及効果が約3兆6000億円に達し、万博協会は運営収支を最大370億円の黒字と見込んでいる。

ソーシャルメディアが左右した来場者動向

過去の万博との明確な差異の一つは、ネットで拡散された情報が来場者の動静に大きな影響を与えた点だ。開幕前にはネガティブな言説がネット空間にあふれ、当初の客足は鈍かった。しかし、風向きを変えたのもまたソーシャルメディアだった。広大な会場の効率的な歩き方から必見パビリオンの紹介まで、利他的な攻略法がSNSで惜しみなく提供され、情報の密度と速度が来場者数を増加させた。

例えば、大阪市の会社員「ゴトウ」さん(31)は「万博実況中 育休ママのリアル発信」のアカウント名でインスタグラムに投稿を重ね、子育て世代向けの情報を発信。ある動画は再生回数が13万回を超え、会場で思いもよらぬ出会いを体験したという。また、会社員「つじ」さん(51)が作成したユーザー目線の地図はX(旧ツイッター)で注目を集め、100万枚以上が印刷されるなど、ネットと現実が融合した新たな万博体験が生まれた。

リアルな交流こそが万博の核心

ネットとの関係性が不可分となる一方で、多くの関係者が万博開催の最たる意義として言及したのが「会場内外でのリアルな交流」だった。メディアアーティストの落合陽一氏が手がけたテーマ館「null2(ヌルヌル)」では、AIが生成した分身と対話できるなど「現場に来ないと体験できない」仕掛けが人気を集めた。落合氏は「来場者は結局、写真の解像度では切り取れないリアルなものに価値を見いだした」と分析する。

映画作家の河瀬直美監督による「Dialogue Theater―いのちのあかし―」は、その日出会った2人がディスプレー越しに対話する異色のパビリオンで、世界中で深まる「分断」の解決を試みる実験場として機能した。音楽家の中島さち子氏の「いのちの遊び場 クラゲ館」では、年齢や国籍、障害の有無を超えた自由な遊び場がコンセプトとなり、約40か国とのコラボレーションが実現した。

国際交流とビジネス機会の拡大

政府の万博国際交流プログラムには95自治体、76か国が参加し、154件の事業を展開。東京五輪・パラリンピックにおけるホストタウンの万博版として、栃木県那須塩原市は姉妹都市のオーストリア・リンツ市と音楽を通じて交流を深め、合同合唱団が万博会場で美しいハーモニーを響かせた。

万博外交と経済連携の深化

世界情勢が緊迫する中、いわゆる「万博外交」も活発に行われた。自国の文化を紹介するナショナルデーに合わせた王族や首脳級、閣僚らの来訪は150か国、延べ約600人に上り、当時の石破茂首相がこなした会談や表敬訪問は約50件に及んだ。パラグアイのサンティアゴ・ペニャ大統領夫妻は自国の子どもたちが折った折り鶴を持参し、アイスランドのハトラ・トーマスドッティル大統領は語り部を伴って原爆資料館を見学するなど、平和への思いを新たにする要人の姿が目立った。

参加各国は産業や技術をアピールする現場として万博をフルに活用。デンマークのフレデリック国王は即位後初のアジア訪問先に日本を選び、企業使節団を連れて来場。人口600万人弱ながら食料生産量の3分の2を輸出する同国にとって、日本市場への期待は大きい。マレーシアはパビリオン内にビジネスホールを設け、100社以上が商談会やセミナーに参加した。

未来社会の実験場としての技術革新

「未来社会の実験場」を掲げた今回の万博で、呼び物の一つとなったのが「空飛ぶクルマ」だ。スカイドライブ(愛知)、ANAホールディングスと米ジョビー・アビエーション、丸紅の3陣営がデモ飛行を披露。電池とモーターで飛ばす軽い機体は圧倒的な静粛性を誇り、自動運航も想定されるなど、移動手段の在り方を一変させる可能性を秘める。経済産業省の奥田修司・博覧会推進室長は「万博はある意味、将来への投資であり、披露された技術をどう生かすかが大切だ」と社会実装への期待を寄せる。

大阪府・大阪市による大阪ヘルスケアパビリオンでは、iPS細胞から作った心筋シートや「カラダ測定ポッド」のデータから被験者の将来の容姿を予測する「リボーン体験」が注目を集めた。コックピット状の浴槽で微細な泡を使って汚れを落とす「ミライ人間洗濯機」は購入希望が相次ぎ、量産化が決定。パビリオンに週替わりで出展した約440社のうち、年末には約50社が再結集し、展示商談会を開くなど、ビジネスチャンスの拡大に意欲を燃やす企業が少なくない。

持続可能な社会への挑戦とレガシー

パビリオンの建設では、建築家の永山祐子氏が革新的な取り組みに挑んだ。ドバイ万博で設計した日本館の部材約1万点を再利用し、ウーマンズパビリオンへの転用を実現。現行の建築法規では構造材の再利用には高いハードルがあるが、大阪府・市と協議の上、特例措置として使用許可を得た。永山氏が設計したもう一つのパビリオン「ノモの国」では、パナソニックホールディングスが建築部材を99%以上再利用することを発表するなど、持続可能な社会の実現に向けた姿勢が示された。

跡地利用とソフトレガシーの可能性

会場跡地の「夢洲」は国際観光拠点として整備され、2030年秋の開業を目標に統合型リゾート(IR)が建設される。万博のテーマを継承する開発が求められる中、関西経済連合会の松本正義会長は「未来社会とどう関係あるのか」と跡地利用案に疑問を呈している。

注目すべきはソフトレガシーだ。複数の国や地域が共同で出展したパビリオン「コモンズ」では、94か国が参加。南太平洋のツバルは地球温暖化による水没の危機を紹介し、来場者から「沈まないで!」といった手書きのエールが多数寄せられた。戦時下のウクライナも出展し、地下シェルターで子どもたちが勉強する姿などを伝える動画で共感を引き出した。

博覧会国際事務局長のディミトリ・ケルケンツェス氏は「最も大きなレガシーは、世界が最も分断している時期に世界を団結させたことだ」と語る。今回の万博には大阪府内の小中高生だけでも60万人近くが無料招待され、若年層が未来に向けて可能性の種を育てる機会となった。ネット時代におけるリアルな交流の価値と、未来社会への技術革新が交錯した184日間は、新たな国際協力と持続可能な発展の礎を築いたと言えるだろう。