大井川鉄道「黒いSL」が一時休止へ 人気アニメ「パーシー」に改造する戦略的意図とは
大井川鉄道「黒いSL」休止 パーシー改造で集客強化 (16.02.2026)

大井川鉄道の「黒いSL」が一時休止 パーシー改造で新たな挑戦

静岡県を走る大井川鉄道は、長年にわたり鉄道ファンから親しまれてきた「黒いSL」ことC10形蒸気機関車8号機の運行を一時休止し、人気アニメ「きかんしゃトーマス」に登場するキャラクター「パーシー」への改造作業を開始した。この決断には、SL運行継続に向けた深い戦略的意図が込められている。

子どもたちの夢を乗せて パーシー改造の背景

2026年1月12日、多くの鉄道ファンが大井川鉄道大井川本線沿いに集結した。これは、翌13日から始まるC10形8号機の改造作業前に、最後の「黒いSL」の姿をカメラに収めるためだった。1930年に製造されたこの機関車は、国鉄時代の姿を保ちながら運行され、SL復活運転の草分け的存在としての歴史を刻んできた。

しかし、SLファンの高齢化が進む中、大井川鉄道は2014年から「トーマス」の意匠を施したSL運転を開始。同社の新堀絵理さんによれば、「黒いSLに比べトーマスの乗客は5倍」という驚異的な集客力を発揮している。今回のパーシー改造も、子どもたちの「トーマスが好き」という純粋な気持ちを鉄道体験につなげ、家族連れの乗客増加を目指す戦略的一環だ。

動態保存の課題と限られた資源

大井川鉄道がSL列車の営業運転を継続する上で直面しているのが、動態保存可能な機関車の限られた数だ。同社は各地から国鉄型SLを入手してきたが、製造から数十年が経過しているため故障が頻発。法定の定期検査にも長期間を要するため、実際に運行できるSLの数は常に制約を受けている。

現在、同社が所有するC11形227号機やC12形164号機、C56形44号機はいずれも運用を外れており、トーマスのC11形190号機も定期検査中。検査明けまではC10形8号機のみが運行可能な状態だったため、集客力の高い「動くパーシー」への改造が決断された。

静態保存と動態保存の違いについて説明すると、静態保存は公園や博物館での展示保存を指し、動態保存は走行可能な状態での保存を意味する。後者は整備費用や部品調達など多くの課題を抱えている。

国鉄型SL復活への道筋

新堀さんは「皆さんになじみのある黒いSLも、再び走らせたいと思っています」と語り、国鉄型SLの復活への意欲を示している。具体的な計画として、2022年に兵庫県加東市から搬入されたC56形135号機の動態復元作業が「東海汽缶」の蒸気機関車整備工場(島田市)で着々と進められている。

この復元作業にはクラウドファンディングで集められた資金も活用されており、鉄道ファンと企業の協力による文化財保存の好例となっている。一方、2023年に富山県高岡市から譲渡されたC11形217号機については「走らせるかどうか検討中」としている。

全線復旧への展望とSLの未来

2022年9月の豪雨による土砂災害の影響で、大井川本線は全長39.5キロの約半分が不通のままとなっている。同鉄道は2029年春の全線再開を目指して復旧作業を進めており、その時までには黒いSLを含む3両体制での運行再開が期待されている。

動くパーシーは来月にお披露目される予定で、トーマスもゴールデンウイーク頃には検査が明けて運用に戻る見通しだ。大井川鉄道のSL戦略は、伝統的な鉄道文化の保存と、新しい世代へのアプローチを両立させようとする挑戦的な試みとして注目を集めている。

鉄道ファンたちは複雑な思いを抱きながらも、子どもたちの笑顔とSL運行継続のためには必要な変化だと理解を示している。大井川鉄道の取り組みは、日本の鉄道文化が次の世代へと受け継がれていく過程の重要な一幕となるだろう。