クマ接近をAIで検知し自動撃退、岐阜大と飛騨市が実証試験を開始
クマ接近をAI検知で自動撃退 岐阜大と飛騨市が実証試験

国内で相次ぐ深刻なクマの被害を防ぐため、岐阜大学や岐阜県飛騨市などが、IoT技術を搭載したカメラと人工知能(AI)を活用した画像解析により、クマが接近すると自動で撃退スプレーを噴射する機器の実証試験を開始した。先進技術を駆使してクマの生息域と人里のゾーニングを強化し、効果的な鳥獣被害対策に生かす試みだ。

実証試験の概要

同市古川町でモモやリンゴを栽培する黒内果樹園では4月29日、同大応用生物科学部の森部絢嗣准教授が、山林との境目に撃退スプレーを自動噴射する機器「AIBeS(アイベス)」を設置した。果樹園の天木政彦組合長(62)によると、電気柵などで対策しているが、クマによる果樹の被害は毎年発生。「実を食うだけでなく、枝も折っていくので翌年以降の栽培にも響く」とため息を漏らす。

AIBeSの仕組み

アイベスを開発したのは、鳥獣被害対策の製品開発を手がける「ハイク」(北海道旭川市)。熱源を検知するとカメラが起動し、自動で撮影した画像をAIで解析してクマやイノシシ、シカ、ヒトといった十数種類を識別するシステムを構築した。森部准教授は実用化に向けた実証を担う。

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事前に指定した鳥獣をAIが識別した場合、専用アプリやメール、LINEで通知した上で、市販の撃退スプレーを噴射する仕組み。識別精度は高く、ヒトも見分けられて誤検知や誤作動はほぼないというが、画像の信頼度に応じて噴射の条件設定も可能。噴射時間や回数も変更できる。

実証の詳細と今後の展望

森部准教授によると、画像で検知できる距離は約15メートルで、現状は検知から噴射までに約30秒のタイムラグがある。侵入を防ぐ柵を取り付けられない水路や、目撃情報の多い特定のエリアなどピンポイントでの対策に有効といい、9月末までの実証期間で設置台数を増やし、位置も変えるなどして効果を検証する。

システム上はクマだけでなく、イノシシやシカによる食害の対策などにも活用できる。森部准教授は「AIで動物の種類を判別した後、スプレーを噴射するという『動き』を付けられたことに意義がある。必要に応じて花火を飛ばしたり、シャッターを開閉したりするなど応用の幅が広がる」と強調する。

従来はクマの目撃情報があれば、自治体職員らが現場の警戒やわなの設置をしてきたが、夜間や遠隔地では継続的な対策が難しかった。過疎の著しい飛騨市では、里山を管理する人材の減少や猟友会員の高齢化も深刻。市林業振興課の担当者は「人手いらずな上に24時間態勢で対応できるのは効果的だ」と期待する。

クマ被害の現状

環境省によると、全国で2025年度に発生したクマの人身被害件数(速報値)は216件で、被害者238人のうち死者は13人と、いずれも過去最多だった。被害は東北地方が中心だが、中部9県では長野11件、富山5件、岐阜4件と続いた。

国内では明治期以降、クマを有害獣として積極的に駆除してきたが、1990年代に狩猟の禁止や捕獲の自粛といった保護政策に転換した。個体数は増える一方、中山間地域では人口減少や高齢化が加速。里山の管理がおろそかになり、近年の出没増の要因となった。

政府は3月、30年度までのクマ被害対策のロードマップ(工程表)を策定。中部では26年度の捕獲目標を3500頭と定め、現在1万7500頭余りとされる個体数を5年間で1万1千頭にする方針を打ち出した。市街地に出没したクマを自治体判断で駆除できる「緊急銃猟」も昨年9月に始まり、25年度は60件の発砲事例があった。

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環境省が4月に初公表したリポートによると、クマの大量出没年の秋に人の生活圏で人身被害が多発したと判明。不要な果樹の伐採や果実の除去、生ごみの管理などでクマを寄せ付けないほか、鈴やラジオの携帯、複数人での行動で人の存在を知らせるなど、基本的な対策を呼びかけている。