国民健康保険(国保)に加入すべき個人事業主らが、保険料を安く抑える目的で法人の役員などに就任し、社会保険(社保)に加入する「国保逃れ」。国は3月、こうした脱法行為を是正するよう日本年金機構などに通知したが、これをすり抜ける「社会保険加入サービス」を掲げて集客する業者が存在することが、東京新聞の取材で明らかになった。個人事業主を従業員として雇用する形で、国も実態を把握し問題視しているものの、有効な対策が取られていない。
「月額3万4100円で社保に入れる」
社会保険加入サービスを提供する東京都町田市の業者は、顧客向けの説明資料で「月額3万4100円で社保に入れる」という枠組みを紹介している。この資料は、坂の上社労士事務所(東京都千代田区)代表で特定社会保険労務士の前田力也さんが、国保逃れの実態を調査するために業者と接触して入手したものだ。それによると、個人事業主は同社の従業員となる一方、同社に月3万4100円を支払って広告PRやコンサルティング名目の契約を結ぶ仕組みである。
厚労省の通知後も公然と加入者募る
同社の社員となった個人事業主の仕事は、自身の事業をPRすること。普段通りSNSで発信することを「業務」と見なすという。ホームページでは「月々の支払いを抑えつつ将来の年金額を増やせる」などと謳い、厚生労働省が3月に出した通知以降も公然と加入者を募り続けている。
この強気な姿勢には、厚労省の通知に潜む「穴」も関係しているようだ。通知は、個人事業主らが一般社団法人などで実態のない役員に就くケースを想定したものだった。社会保険料は報酬(給与)に比例するため、最低賃金の縛りがない役員報酬をできるだけ低く抑え、保険料を安くする形の国保逃れが相次いだからだ。
「従業員は役員と違って実態を見極めにくい」
一方で、従業員として雇用するケースには通知は触れていない。厚労省の担当者は「役員ではないパターンがあることは認識しており、対応は検討している」と説明する。それでも通知で触れなかった理由として、「従業員は役員と違って実態を見極めにくい」と述べている。役員の場合、従業員への指揮監督に従事しているかなど、経営参画の有無を見極めやすく、役員会の議事録でも実態を確認できる。しかし、従業員については「雇用契約のあり方は千差万別で、画一的な基準を示すのが難しい」という。
町田の業者は横浜市の行政書士が代表を務め、美容師ら向けに別の社保加入会社も経営しているが、東京新聞の取材には応じなかった。
「短時間労働者として社保に入り、給与から架空経費を控除」
国も手をこまねく「従業員型」の国保逃れ。しかし従業員型は、役員型と異なり最低賃金の縛りがあり、保険料を安くするために給与を下限に下げる手法を取ることができない。どんなからくりなのか。
「従業員型」を掲げる東京都町田市の業者と接触した特定社会保険労務士の前田力也さんは、業者が示した顧客向け資料やメッセージから、こんな「仮説」にたどり着いた。「短時間労働者として社保に入り、給与から架空経費を控除する」というものだ。
短時間労働者は、要件を満たした事業所で働く従業員のうち、週の労働時間が20時間以上、賃金が月額8万8000円以上などの労働者を指し、社保の加入対象となる。労働基準法に従って就業規則を整え、労使協定を結べば、少ない給与からさらに任意の経費を控除でき、業者は合法的に負担を減らせるという。
「給与ゼロ」の従業員
実際に町田市の業者は資料で、「(給与の)額面金額から社会保険料などを差し引いてゼロになるため、弊社から皆さまへの振り込みはありません」と説明している。要するに給与ゼロの従業員だ。前田さんは、「社保加入の際に業者が日本年金機構に出す書類には、給与の額面しか記載がなく、いくら控除したかは分からない。実地調査に入らない限り、発覚の可能性は低い」と警鐘を鳴らしている。



