「相談すれば良かった」。東京地裁の法廷で、ガールズバーの従業員だった被告(22)は声を震わせながらそう語った。彼女には何度も相談する機会があった。しかし、できなかった。先送りにされた不安は、出産の日に爆発した。
被告は2025年9月、東京・池袋の勤務先のトイレで女児を出産した直後に殺害したとして、殺人罪に問われた。東京地裁で2026年5月に行われた裁判員裁判では、妊娠を一人で抱え込んだ背景が詳細に明らかにされた。
生い立ちと孤立の始まり
被告は山梨県で生まれた。小学1年生の時に父親が病死すると、母親はアルコール依存症になった。年の離れた2人の姉は早々に家を出て、被告は家庭内でストレスを抱えながらも学校では明るく振る舞い、部屋で一人で悩みをため込むようになった。中学生の頃にはほとんど不登校となり、その間に母親も亡くした。高校卒業まで、実家に戻ってきた姉と暮らした。
2022年、美容専門学校に進学して上京したが、授業が想像と異なり、夏休み明けから通わなくなった。姉からの仕送りとアルバイト代は買い物や飲食に費やし、家賃を滞納した。姉から帰郷を促されたが、東京に残ることを選んだ。ガールズバーで働きながら店やネットカフェで寝泊まりし、学校は1年で中退した。姉からの連絡も無視するようになった。
妊娠と孤独な決断
2023年秋ごろ、ガールズバーの男性客と交際を始めた。嫌われるのが怖くて避妊を求められなかった。2024年3月に妊娠に気付いた時には、男性から一方的に連絡が絶たれていた。中絶も考えたが、産むことを決意した。宿った命に「いとおしさを感じた」からだった。
しかし、病院には行かなかった。お金がなく、保険証も紛失していた。相談先の調べ方が分からず、役所にも相談しなかった。姉に頼ることも考えたが、結局連絡しなかった。弁護人の「なぜ言えなかったのか」という問いに、被告は「怒られるのが怖かった」と答えた。何度も迷惑をかけてきた負い目があった。
妊娠発覚後、男性は再び店に来るようになったが、妊娠を伝えなかった。「拒絶されるのが怖かった。嫌がられると思った」と被告は語った。店長に「妊娠してない?」と聞かれた時も否定した。「クビにされるのが怖かった」からだ。事実を隠しているうちに孤立は深まった。
証人出廷した男性は、出産3週間前まで店で複数回会いながら、妊娠に「気付かなかった」と証言した。「当たり障りない話」しかしていなかった。職場でも、一度否定すると深く追及されなかった。
出産と衝動的行為
2025年9月22日夜、出勤前に更衣室で陣痛に襲われた被告は、トイレに駆け込み出産した。予定日は10月だと思っていた。赤ん坊を見ると頭が真っ白になった。「店にばれるとクビになる。泣きやませないと」。そう考え、首に手をかけた。遺体をごみ箱に入れたが、店長らに隠し通せず、交番に自首した。
判決と後悔
東京地裁は拘禁刑3年6月(求刑拘禁刑6年)の判決を言い渡した。「同情の余地はあるが、孤立した原因を周囲ばかりに求めることはできない」と指摘した。
判決前の公判で、被告はこう述べた。「反省点は、頼るべき人や場所があるのに、裏切られたり怒られたりするのが怖いという自分勝手な思考です。怒られてもいいから頼っていたら、母親としてまっとうに過ごせていたかと思うと、後悔してもしきれません」。事件後、被告は「美空(みく)」と書いた出生届と死亡届を提出したという。
本連載「法廷の雫」では、法廷で交錯する悲しみや怒り、悔恨など人々のさまざまな思いを随時伝える。



