「怒り」を商品化する現代のメディア環境 アテンションエコノミーの闇
YouTubeをはじめとするソーシャルメディア上で、特定の国や集団への反感をあおる「嫌中系動画」が増加している背景には、視聴者の「怒り」や「嫌悪」といった負の感情を利用して収益を上げる「アテンションエコノミー」の構造的問題が潜んでいると、専門家が警鐘を鳴らしています。
負の感情がもたらす経済的インセンティブ
社会情報学が専門の国際大学・山口真一教授によれば、怒りや不安、嫌悪感といったネガティブな感情は、人間の注意を引きつけやすく、動画制作者にとって広告収入を得やすいコンテンツとなっています。特に、特定の国家や民族集団に対する反感を刺激する内容は、視聴者の感情を強く動かすため、拡散されやすい傾向にあるのです。
山口教授は「こうした動画が制作される背景には、発信者の個人的な信条や差別意識だけでなく、経済的動機も無視できない」と指摘。制作者が収益を追求するあまり、事実確認が不十分な内容や偏った情報を流布するケースが後を絶たない現状を憂慮しています。
偽情報が現実認識を歪める危険性
さらに問題なのは、一部の動画に「フィクション」や「創作」といった注記があったとしても、視聴者にその趣旨が十分に伝わらない場合があることです。山口教授は「コンテンツが現実の出来事として受け止められれば、差別意識の強化や社会認識の歪みにつながりかねない」と懸念を示します。
特に中高年層を中心に、誤情報や陰謀論を信じやすい傾向があると指摘。感情に訴えかける動画内容が、無意識のうちに偏見や誤った固定観念を植え付ける可能性について、注意を呼びかけています。
アテンションエコノミーと向き合う社会の課題
今回の取材では、実際に「嫌中」動画を発注した人物へのインタビューも実施。経済的利益を追求する過程で、軽い気持ちで関わったことが後悔につながった事例も明らかになりました。
山口教授は、プラットフォーム運営企業と個人の双方が、アテンションエコノミーの負の側面にどう向き合うべきか、早急な対策が必要だと強調。感情に訴えるコンテンツがもたらす社会的影響を考慮した、より責任ある情報発信の在り方が求められています。
デジタル時代の情報環境において、単純な感情論に流されず、事実に基づいた健全な議論を促進する仕組みづくりが、喫緊の課題として浮き彫りになっているのです。



