動物の生態をデータで追跡する「バイオロギング」とは
人間が立ち入れない海の深部や空の高みに生息する野生動物たちは、どのような生活を送っているのでしょうか。この謎を解き明かす画期的な手法が「バイオロギング」です。これは、動物に小型の記録装置を取り付け、行動や生理データを収集する調査方法で、自然界における野生動物の実態を浮き彫りにします。
バイオロギングの起源と発展
バイオロギングは、1980年代から本格的に始まった研究手法です。東京大学大気海洋研究所の佐藤克文教授によれば、「観察が難しい動物の生態を知りたいという研究者たちの強い希望から生まれた発明」だといいます。名称は、「生物」を意味する「バイオ」と「記録する」という意味の「ロギング」を組み合わせた造語で、2003年に日本で開催された初のシンポジウムで命名されました。今では世界的に普及していますが、そのルーツは日本にあるのです。
ペンギンの潜水行動解明など、研究成果の具体例
佐藤教授は、ウミガメやペンギン、アザラシなど多様な動物を対象に研究を進めてきました。特に印象深いのは、ペンギンの潜水に関する研究です。記録装置から得たデータを分析した結果、ペンギンは潜水前に深さをあらかじめ決定し、それに応じて空気の吸入量や羽ばたきを調節していることを世界で初めて明らかにしました。この発見は読売新聞にも掲載され、広く注目を集めました。
佐藤教授は、「研究成果が直接社会の役に立たなくても、多くの人々が『へー!』と驚き、興味を持ってくれることが大切だ」と語ります。研究の楽しさは、仮説を証明するだけでなく、収集したデータから新たな疑問を探求する過程にあると強調しています。
技術進化と多分野への応用可能性
技術の進歩に伴い、バイオロギング装置はますます高性能化しています。また、収集されるデータは多岐にわたり、気象学など全く異なる分野にも活用可能です。例えば、「BiP Earth」というウェブサイトでは一般公開されているデータもあり、今後のさらなる応用が期待されています。
子供たちへのメッセージと研究の未来
佐藤教授は、子供たちに向けて「先生の言うことと違っても、自分の発想でやりたいことを追求してほしい。運は、努力を続ける人に巡ってくるものだ」とエールを送ります。自身も、釣りが好きだったことから研究の道へ進み、バイオロギングと出会った経験を振り返り、「創意工夫で課題を解決するプロセスが面白い」と語りました。今後は、シーラカンスなど新たな生物への装置取り付けにも挑戦したいと意欲を見せています。
バイオロギングは、野生動物の生態解明を通じて、私たちに自然の驚異を教えてくれるだけでなく、科学技術の可能性を広げる重要な手法です。佐藤教授のような第一人者の情熱が、未来の研究をさらに豊かにしていくことでしょう。