アンテプリマのクリエーティブディレクター・荻野いづみ氏は、現代アーティストとの協業を積極的に進めている。2月のミラノコレクションでは、美術家・宮永愛子との対話を基に、時間や記憶をまとう服作りを試みた。荻野氏は「ファッションはアートを飾る素敵な壁でありたい」と語り、商業とアートの融合に意欲を見せる。
寂れ、老いにも美しさを見出す
宮永の代表作は、ナフタリンで日用品をかたどった彫刻。空気に触れると昇華し、徐々に形を変える。荻野氏は「寂れたり年老いたりすることにも美しさがあるという彼女の表現が、我々のコンセプトと一致した」と述べる。
記憶の糸を編むニット
「記憶の糸」をコンセプトにしたゆったりとしたニットは、裾や袖口から毛糸の玉がぶら下がり、編み始めた日からの時間の経過を表現。2種類の糸でグラデーションを描く別のニットは、ナフタリンの変化をとどめる樹脂のように透明な素材でコーティング。宮永の透明で冷たく硬質な作品を、カシミヤという柔らかな素材で対比させた。
経年変化を楽しむバッグ
ブランドを象徴するワイヤーバッグには、純銀を吹き付けたフィルムをポリ塩化ビニールでコーティングした素材を使用。チョウのモチーフの刺繍部分はコーティングせず銀を露出させ、使い込むうちに黒ずむ。経年変化を楽しむ趣向は、ショーを見に来たアートコレクター仲間から好評だった。
アーティストとの協業はライフワーク
荻野氏はアーティストとの協業を「ライフワーク」と位置づけ、これまで岩崎貴宏、加藤泉、田島美加らと組み、宮永で10人目となる。過去には自ら外国を旅して着想を得たが、「それだとなんかつまんない。私の下にいるデザイナーたちにとっては、私の持って帰ってきた印象だけを頼りにコレクションを作るより、初めて会ったアーティストと対話して掘り下げていく方が面白い」と語る。
自身も現代アートに造詣が深く、宮永の彫刻2点を含め、収集作品は100点ほど。イタリアで2年ごとに開かれるベネチア・ビエンナーレは30年以上見続け、第61回展では日本館の展示を支援するコレクターズサークルの発起人代表として寄付金集めに奔走し、目標額を大きく超える支援を得た。
アートが魅力的に見える場としての服
荻野氏は「アーティストとファッションの協業は、アートをより身近にし、ファッションに深みを与える」と強調。商業としてのファッションがアートを支える役割を果たすことで、双方に新たな価値が生まれると信じている。



