京都の老舗表具店がデジタル掛け軸サービスを開始、自作絵画やペット写真も可能に
江戸時代の天明年間(1781~89年)に創業した表具・文化財修理会社「宇佐美松鶴堂」(京都市下京区)が、デジタル技術を活用した新しい掛け軸サービス「掛軸シミュレーター」をスタートさせました。この試みは、京表具の伝統技術と現代のデジタル技術を融合し、好みの一幅をあつらえることで、掛け軸文化をより身近にすることを目指しています。
老舗の歴史と現代的な挑戦
宇佐美松鶴堂は、西本願寺の門前町に位置する老舗で、戦後には国宝や重要文化財の修復を数多く手がけてきました。当主は代々「宇佐美直八」を名乗り、現在は9代目(67歳)が務めています。今回の掛軸シミュレーターを考案したのは、直八さんの長男・直孝さん(35歳)です。2021年から父の下で修業する中で、和風建築や床の間が減少する現状を目の当たりにし、危機感を抱いた直孝さんは、「現代建築になじみ、若者世代にも親しまれる表具文化を提案したい」と企画しました。
デジタルシミュレーターの仕組みと利点
シミュレーターは、同社のホームページにある専用サイトで利用できます。ユーザーは、掛け軸にしたい作品「本紙」の画像を登録し、「形式」と「裂地(きれじ)」を組み合わせた完成イメージを確認することができます。手元のデジタル画面で可視化できるため、誰もが気軽に掛け軸作りを楽しめるのが特徴です。完成したサンプルを登録・保存し、同社に送信すると、実際の制作が可能になります。
形式は、裂地を3種類使う「3段表具縦」「同横」(いずれも税込み9万9000円)、裂地が1種類の「袋表具縦」「同横」(同8万8000円)の4種類が用意されています。裂地は場所別に「上下」9種類、「中縁(ちゅうべり)」「一文字」各8種類を選択可能で、多彩な組み合わせが楽しめます。サイズは本紙の内容によって同社が割り出し、注文時に相談する仕組みです。
幅広い作品と収納の簡便さ
直孝さんが想定する本紙は、アーティストの作品だけでなく、自作の絵や書、ペットの写真など多岐にわたります。洋室でも掛けて鑑賞でき、巻いて保存箱に入れると収納も簡単なため、現代のライフスタイルに適応しています。直孝さんはこの取り組みを「掛け軸をアップデートする試み」と位置づけ、今年1月末には社内に裂地などを展示するショールーム(予約制)を開設しました。壁面には上下と中縁向けの裂地を並べ、奥にはサンプルとして自分で撮影した風景写真の袋表具などを掛けています。
思い出を形にする可能性
サンプルの一つには、「忠」と書かれた書があります。これは、太平洋戦争の学徒動員で亡くなった8代目の兄が残した書に、その母が愛用していた着物の裂地を合わせたもので、「取り合わせ次第で、思い出の一幅も制作できる」と直孝さんは意気込んでいます。本来、掛け軸には「上下は無地」「本紙に近い裂地ほど上等に」など、色柄の調和を図る文化的なルールがありますが、直孝さんは「基本的なルールを紹介しながら、まずは掛け軸づくりを楽しめるようサポートしたい」と話しています。
問い合わせは宇佐美松鶴堂(075・371・1593)まで。



