家族の事情がきっかけで生まれた完全リモート企業
企業の事務業務をオンラインで代行する「Colors」(東京都中央区銀座)は、社内のスタッフ全員が完全にリモートワークで業務を行う珍しい企業です。このユニークな働き方が生まれた背景には、角前壽一(かくぜん・ひさかず)社長(43)の家族に起きた出来事がありました。
バーチャルオフィスとしての銀座本社
インバウンド観光客でにぎわう銀座のメインストリートから数百メートル離れた閑静なエリアに、同社の東京本社はあります。しかし、このオフィスは郵便物が届くだけのバーチャルオフィスに過ぎません。角前社長自身も大阪の自宅を拠点に仕事をしており、「仕事をするための空間ではありません」と語ります。
多様な背景を持つ550人のスタッフ
Colorsでは約550人のスタッフ全員がリモートで働いています。引き受ける業務は、中小企業の経理や秘書業務、プレゼンテーション用スライドの作成、資料のまとめなど多岐にわたります。業務量に応じて2人から50人程度のグループに分かれて仕事を分担し、スタッフは北海道から沖縄まで全国各地、さらには欧州などの海外にも散らばっています。
スタッフの9割以上が女性で、障害児を育てながら通院や療育との両立が難しい人、夫の転勤で全国を転々とする人など、バックグラウンドは実にさまざまです。広報担当の小林早也香さん(38)は「リモートでなければ働けなかった人が多い。実は私もその一人です」と明かします。
次女の病気が転機に
角前社長がこの働き方にたどり着いたのは2018年のことでした。当時、都内でコンサルタント業を営んでいた角前社長に、生まれたばかりの次女の心臓に病気が見つかったのです。入院や手術の準備のために妻子は実家のある大阪に転居し、角前社長は東京と大阪を頻繁に行き来する生活を余儀なくされました。
スタッフへの業務指示がもっぱら電話やメールとなったことで、「これなら、別にオフィスがなくてもいいんじゃないか」という考えが浮かびました。さらに多忙を極める角前社長は、自分の業務負担を軽くして経営に集中するため、資料作りやデータ集めなどの作業を次々とリモートワーカーにアウトソーシングしていったのです。
現在の事業へと発展
業務がすっかり身軽になったころ、「もっと仕事をくれませんか」とリモートワーカーからせがまれるようになりました。しかし、もう発注できる業務はなくなっていました。そこで角前社長は「じゃあ、僕の周りの社長にも手を貸してほしい人がいそうだから仕事もらってくるわ」と考え、これが現在の事業の始まりとなりました。
オフィス回帰の動きの中での存在意義
新型コロナウイルス禍での外出制限を契機にリモートワークは社会に浸透しましたが、現在はオフィス回帰とも言える揺り戻しが起きています。大手企業やIT企業の中には、社員同士のコミュニケーション活性化を目的に出社頻度を高めるよう求める動きも見られます。
角前社長も、スタッフ同士の打ち合わせを通信アプリを通じて行う中で、「顔の表情から読み取れる微妙なニュアンス、心の揺らぎなどをくみ取りにくいのは確か」と認めています。しかし同時に、「すごく能力が高いのに、これまでは労働市場に出てこられなかった人たちが働き手として活躍できるようになる」とリモートワークのメリットを強調します。
効率と効果の使い分けが未来の鍵
Colorsの事業は順調に拡大しており、契約社数は今年1月時点で延べ1000社を超えました。角前社長は今後の働き方について、「二者択一のトレードオフではなく、効率を追求する領域ではリモートワーク、リアルで関わる効果性の高い領域ではオフィスワークと、使い分けが進んでいくのではないか」と予測しています。
家族の事情から始まったこの取り組みは、多様な人材が活躍できる新たな働き方のモデルとして、今後も注目を集め続けるでしょう。



