昨年12月17日午前10時50分ごろ、堺市西区の国道26号で、老人施設に向かう訪問診療のワゴン車が縁石に衝突した。運転していた50代の男性が突然、心肺停止状態に陥ったのだ。不整脈が原因だったという。
偶然の連鎖が生んだ救命劇
後部座席に乗っていた歯科医師が素早く運転席に移り、ブレーキをかけて車を停止させた。片側二車線の第一車線がふさがる中、現場には次々と人が集まり、交通整理や心臓マッサージが始まった。
散歩中に通りがかった岩橋俊さんは「誰か119番したんか?」と声を上げ、誰も通報していないことに気づいて自ら電話した。
そのころ、歯科衛生士は近くの葬儀社に駆け込み、AED(自動体外式除細動器)の有無を尋ねた。対応したのは当時従業員の千葉彩華さん(38)。千葉さんはその日出勤前にたまたま近くのドラッグストアで買い物をし、店内にAEDが置かれているのを知ったばかりだった。
「急がなきゃ」。約150メートルを全力で走り、息を切らしながらドラッグストアに駆け込んだ千葉さんは、「人が倒れています。AEDをお借りします」と叫んだ。
数分後、現場に戻ると、男性の上半身にAEDの電極パッドが装着された。ちょうどそのとき、西消防署の救急隊が到着し、隊員による電気ショックが開始された。最初に心臓マッサージをしていた男性は、黙ってその場を去ったという。
医療チームの連携で一命を取り留める
さらに、市立総合医療センターから救命救急センターの男性医師と看護師の藤本有香さん(36)が合流。救急車内で点滴の準備をしながらAEDによる処置を続けた結果、病院到着前に男性の呼吸と心拍が再開した。その後、後遺症もなく社会復帰したという。
堺市消防局西消防署は4月24日、救命に関わった人々に感謝状を贈呈。藤本さんは「早くAEDを装着し、電気ショックをしていただいたので男性は助かりました」と述べた。
千葉さんは「たまたま買い物に行ったのが良かった。テレビで見るような場面に自分が遭遇するなんて…」と振り返る。
ドラッグストア店長の三木仁志さん(38)は、過去に店内で倒れた客にAEDを使用したが亡くなってしまった経験があり、「今回は役に立てて本当に良かった」と話した。



