太平洋戦争の戦費をまかなうために、銀行がどのような役割を果たしたのか。その驚くべき実態を描いた新書が話題を呼んでいる。『太平洋戦争と銀行 なぜ日本は「無謀な戦争」ができたのか』(小野圭司著、講談社現代新書)は、戦中・戦後の銀行や金融業界に焦点を当てたルポルタージュだ。本書は、本土だけでなく、朝鮮、台湾、満州、樺太などの当時の植民地をはじめ、世界中に駐在した銀行員や金融関係者の模様を網羅的に記録している。
現地通貨借入金という仕組み
本書で特に注目すべきは「現地通貨借入金」という制度である。戦前の日本では、一般会計とは別に臨時軍事費特別会計を設け、軍事費を運用していた。太平洋戦争時、この特別会計の歳入は国債や通貨増発だけでなく、植民地からの借入金が約6割を占めていた。つまり、戦費の半数以上を植民地から賄い、国力を水増ししていたことになる。著者は、他人の褌を借りて相撲を取るようなこの方法を、はたして「工夫」と呼べるのかと疑問を投げかける。
終戦直後の銀行現場
終戦と聞くと、フィクションでは無一文で焼け野原に立つ人々のイメージがよく描かれる。しかし現実はもっと切迫しており、まず現金を引き出そうと人々が銀行に殺到した。これは国内も外地も同じだった。終戦と戦後の狭間で、銀行員たちは帳簿上に積み重なる瓦礫の後片付けに奔走したのである。
今も残る借入金の記録
臨時軍事費特別会計の一部は特殊銀行などからも借り入れられたが、戦後にそれらの銀行が閉鎖されたため返済は不可能となり、今も国のバランスシートに借入金として形式上残っている。どんなに工夫しても帳消しにできないその数字は、いかなるイメージよりも雄弁に当時の無謀さを物語っている。
本書は、戦時金融の実態を通じて、戦争の経済的側面に新たな光を当てる一冊である。作詞家・小説家の児玉雨子氏が寄稿し、その内容を絶賛している。著者の小野圭司氏は1963年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業後、住友銀行を経て防衛庁防衛研究所に入所し、現在は主任研究官を務める。著書に『日本 戦争経済史』などがある。



