不正を見抜くプロである国税調査官が「ニセ警察官」の電話にだまされ、納税者情報を漏洩(ろうえい)した――。大阪国税局で発覚した前代未聞の不祥事が、国税組織に衝撃を与えている。なぜ、こんなことが起きてしまったのか。その詳細な手口を深掘りする。
事件の経緯
大阪国税局の発表によると、経緯はこうだ。
4月13日午前11時ごろ、大阪国税局課税1部に所属する20代の調査官は、所得税関係の調査のため、大阪府内の税務署に出張して勤務していた。私用のスマートフォンに知らない番号から電話があった。「090」で始まる番号だった。
相手は「千葉県警の職員」を名乗った。いきなり調査官のフルネームを口にし、「とある事件であなたに嫌疑がかかっている」と告げた。さらに「詳細は担当刑事から伝える」として、「千葉県警捜査2課の刑事」を名乗る別の人物に代わった。
その人物から、通話手段を電話からLINEに切り替えるよう誘導された。次に、ビデオ通話で画面越しに警察手帳のようなものを見せられ、本人確認を求められた。調査官は、自分のマイナンバーカードの顔写真部分を撮影して送信した。
相手から職業を問われ、「税務署」と答えると、今度は「事件との関係がないことを確認するため、業務に関係する書類を送れ」と指示された。調査官は離席を繰り返し、同僚が不審に思うほどだった。
なぜ調査官はだまされたのか
滋賀大学の島田貴仁教授(犯罪予防・環境心理学)は、典型的な警察官騙りの詐欺だと指摘する。「警察」という強い権威をかたり、「嫌疑がかかっている」と驚かせ、考える余裕を与えないことが特徴だ。電話からLINEへ移行し、ビデオ通話へと誘導することで孤立させ、他者に相談したり離脱したりしにくい状況をつくり出す。
調査官は日ごろから不正を見抜く訓練を受けているが、権威をかたる相手に動揺し、冷静な判断ができなかったとみられる。この事件は、どんなに専門的な知識を持つ人でも、巧妙な心理操作には弱いことを示している。
今後の対策
大阪国税局は、全職員に対して改めて注意喚起を行うとともに、外部からの不審な連絡に対する対応マニュアルを強化する方針だ。また、警察を名乗る電話があった場合、一度電話を切って自分で警察署に確認するよう呼びかけている。



