2001年に大阪教育大附属池田小で発生した児童殺傷事件から25年。当時2年生だった長女の優希さん(7歳)を亡くした本郷由美子さん(60)は、学校の廊下の床板で作られたアクセサリーを宝物として大切にしている。優希さんが最期に力を振り絞って歩いたその廊下の一部を、彼女はアクセサリーに仕立て、これまでに5人の大切な人に贈ってきた。
娘が歩いた廊下の床板をアクセサリーに
あの日、教室で刺された優希さんは致命傷を負いながらも、懸命に廊下を歩いた。倒れた場所まで続く血痕は、由美子さんの歩幅で68歩あった。彼女はそれを「前を向いて」という優希さんからのメッセージと受け止めた。学校から譲り受けた床板はガラスケースに入れて自宅に飾り、一部はリボンや天使の羽、ハートをかたどった3~4センチ角のアクセサリーに加工。優希さんの誕生石アクアマリンと同じ淡い青色の箱に入れ、取り出すたびに娘のぬくもりを感じるという。
1年生の時の担任への贈り物
昨年6月8日の追悼式典後、由美子さんは校内のモニュメント「祈りと誓いの塔」の前で、優希さんの1年生時の担任だった渡辺信行さん(57)に十字架形のアクセサリーを手渡した。渡辺さんは「この木の香りも肌触りも、あの時のまま。子どもたちの笑顔が昨日のように懐かしい」と喜び、事件後初めて感情を表に出したという。渡辺さんは事件前に転勤していたが、担任した女児5人が亡くなった。事件2か月後には、優希さんが参加するはずだったピアノ発表会で代わりに「剣士の入場」を演奏した。現在は京都市の私立小で教諭を務め、アクセサリーを通勤かばんに入れて持ち歩いている。「事件を風化させてはいけない、と改めて強く思うことが、私の一歩」と語る。
元刑事への贈り物
大阪府警捜査1課の元刑事、岡譲治さん(62)は2年前に由美子さんから十字架のアクセサリーを受け取った。「明日を頑張ろう、と力をくれる宝物になった」と笑顔を見せる。25年前、血まみれの現場に駆け付けた岡さんは、優希さんが歩いた廊下を「『生きたい、生きたい』とたどった最期の道のり」と受け止めた。当時、由美子さんから被害状況や心情を聞き取ったが、アクセサリーを渡されたのは、由美子さんがグリーフケアの一環として大阪市で開いた落語会で再会した時だった。府警退官後はビルメンテナンス会社で学校の不審者対応訓練や警備員教育を担当。「子どもの安全を守るには、どんなに優れた設備より大人の目が大切」と、刑事時代の初心をアクセサリーが思い出させてくれるという。
「事件を語りつないでほしい」
由美子さんはこれまでに5人にアクセサリーを贈った。自身も天使の羽の形に刻まれた二つを、優希さんの写真と一緒にポーチに入れて持ち歩く。「あの子が命を懸けて伝えたメッセージは、私だけのものではない。思いを受け止めてくれる人と分かち合い、ともに前に進みたい。事件を語りつないでくれたらうれしい」と語る。25年間、廊下の床板は彼女を支え続けてきた。これからも、その思いはアクセサリーとともに受け継がれていく。



