働く障害者への「合理的配慮」が事業主の義務となってから、2026年で10年を迎えた。相談を受ける専従スタッフの配置など、障害者が働きやすい環境整備は進んでいるが、配慮を巡るトラブルも発生している。
障害者が働きやすい環境づくりの取り組み
長崎県佐世保市の電気機械修理会社「東洋トラスト特機」では、勤務中に脳内出血を発症し、右半身などに障害が残った男性社員(47)が職場復帰している。会社はリハビリ担当者の助言を得て、階段やトイレに手すりを設置。男性は高次脳機能障害のため会話に課題があることから、同僚には「指示はゆっくり」など注意点を伝え、定期的な面談でサポートを続けている。
元海上自衛官の高倉雅宏社長(68)は「船乗りは運命共同体。会社も同じで仲間を支える」と語り、男性を「明るく、くじけずによくついてきてくれている」と評価。今後は工具のメンテナンスなどを任せる予定だ。
合理的配慮の制度化と具体例
働く障害者への合理的配慮は、日本が2014年に障害者権利条約を批准したことに伴い導入された。2016年4月施行の改正障害者雇用促進法では、過重な負担にならない範囲で、障害に配慮した施設整備などを企業や自治体に義務づけ、能力を発揮できる環境を整えるよう求めている。厚生労働省は具体例として、車いす利用者の机の高さ調節や、発達障害者への業務指示を明確にすることを示している。
事業主側も対応を工夫している。総合人材サービス会社「ランスタッド」(東京)は2017年、障害のある社員を支援する専従の担当者を配置。作業用品店を展開する「ハミューレ」(札幌)では、精神障害者らがレジ打ちや事務補助を担い、業務項目を8段階に分けたシートを作成し、達成状況や体調を確認する面談を週1回行っている。
配慮を巡るトラブルと訴訟
一方で、配慮を巡る雇用主と障害者側の摩擦も生じている。注意欠陥・多動性障害(ADHD)がある埼玉県の男性(52)は、2021年に勤務先の東京国税局から勤務実績が悪いことを理由に、解雇にあたる分限免職処分を受けた。男性は「援助体制などの合理的配慮が欠けたまま処分が行われた」として、処分取り消しを求めて2025年9月、東京地裁に提訴。国税局側は「面談を何度も行うなど配慮は尽くされていた」としている。
全国の公共職業安定所に寄せられた合理的配慮に関する相談件数は2024年度が340件で、前年度の1.6倍に増加。企業側に問題があれば厚労省は勧告や指導ができるが、「個人情報に関わる」として具体事例を明らかにしていない。
専門家の指摘
障害者雇用に詳しい慶応大の中島隆信名誉教授(経済学)は「どこまで配慮すべきかは曖昧で、事業主と従業員間のトラブルや解決できた事例が参考になる。国は、より現場の参考となる情報を発信すべきだ」と指摘する。
障害者雇用の現状と課題
厚生労働省によると、企業で働く障害者は2025年6月時点で約71万人と、10年前の1.6倍に増加した。法定雇用率が2026年7月から0.2ポイント増の2.7%に引き上げられ、働く障害者はさらに増える見込みだが、必要な配慮を言い出せない人も少なくない。
一般社団法人「精神障害当事者会ポルケ」が、就労経験がある精神障害者に行ったアンケートでは、回答者181人の8割が、働く上で障害による困難を経験していたが、職場に合理的配慮を求めたことがある人は4割にとどまった。求めづらい理由は「トラブルにならないか不安」などだった。



