プルデンシャル生命の「巨額不正」 31億円詐取事件の深層
プルデンシャル生命保険において、顧客からの金銭詐取などが31億円にのぼる巨額不正が発覚した。かつて社名ロゴの色から「ブルー」と呼ばれ、業界をリードしてきた同社の信用は大きく墜ちた。この不正の温床となったのは、創業者への妄信と、歪んだ営業組織構造にあった。
カリスマ創業者・坂口陽史氏の神格化
東京・永田町のプルデンシャルタワー本社ビルの隣には、創業者である故・坂口陽史氏の名を冠した「メモリアルガーデン」が存在する。1987年に日本法人を立ち上げた坂口氏は、現在も絶対的なカリスマとして社内で神格化されている。
坂口氏は米国で、確率や統計の手法を駆使する「アクチュアリー(保険数理士)」の試験に日本人で初めて合格したとされる人物だ。彼は当時の国内生保業界とは全く異なる米国流の手法を導入し、業界に新風を吹き込んだ。
「GNP営業」から米国流成果主義への転換
1980年代の国内生保業界は、「生保レディー」と呼ばれた女性営業職員が中心の時代だった。顧客の職場に通ってアメやティッシュを配る、一輪の花を届けるといった、義理・人情・プレゼントの「GNP営業」が主流を占めていた。
当時の生保レディーたちは、会社の指示に従い、顧客の年齢や家計水準にかかわらず、「L字型定期付き終身保険」と呼ばれるパッケージ商品の販売を競っていた。しかし、坂口氏が導入した米国流手法は、このような従来の営業スタイルを一変させるものだった。
歪んだ成果主義と「密な関係」の弊害
プルデンシャル生命が推進した米国流営業手法は、強い成果主義を特徴としていた。このシステムは当初、効率的な営業を可能にしたが、次第に歪みを生じ始める。
営業担当者と顧客の「密な関係」が築かれる中で、本来の保険商品の適正な販売から逸脱する行為が発生。最終的には顧客からの金銭詐取など、31億円にのぼる巨額不正へと発展した。
組織構造の問題点と今後の課題
今回の不正発覚は、単なる個人の不祥事ではなく、組織全体の構造的問題を浮き彫りにした。創業者への過度な崇拝が批判的検討を妨げ、成果主義の名の下に不正が温存される環境を作り出していた。
プルデンシャル生命は現在、社長辞任を含む経営陣の刷新を進めているが、根本的な組織改革と企業文化の見直しが今後の課題となる。生保業界全体にも、過度な成果主義と顧客との不適切な関係構築に対する警鐘を鳴らす事件となった。
かつて「魔法の力を信じます」というキャッチコピーで知られた同社は、今、自らが生み出した「魔法」の歪みと向き合うことを迫られている。生命保険業界の信頼回復に向けて、透明性の高い営業手法と適正な顧客対応の確立が急務となっている。