マンガは日本の財産、全てを表現できる 萩尾望都さんが語る創作の軌跡と未来
マンガは日本の財産、全てを表現できる 萩尾望都さん

マンガとの出会いとデビュー

マンガ史に残る名作を手がけてきた萩尾望都さん(76)は、半世紀以上にわたり第一線で活躍し続けている。手塚治虫らの作品に感動して創作の道に入り、今も歩み続ける巨匠は「マンガはなんでも表現できる、日本の財産」と、ひたむきな愛を語る。マンガと歩んできた軌跡と未来への思いを聞いた。

マンガとの出会いは、子どもの頃に読んだ手塚治虫や石ノ森章太郎、水野英子たちの作品だった。生き生きとした世界に魅了され、高校2年の時、お年玉で買った手塚の「新選組」に強い衝撃を受けた。父親を殺されて新選組に入隊した少年の迷う姿が、思春期の自分の悩みと重なったという。「私もマンガ家になって誰かにショックを返したい」と作品を投稿し始め、20歳でデビューした。

「ポーの一族」と孤独のテーマ

1970年代に「ポーの一族」を少女マンガ誌で発表し、読者に衝撃を与えた。子どもの姿のまま吸血鬼になったエドガーが「ぼくがどんなに孤独かあなたがたにはわかるまい」と独白する場面では、読者から多くの共感の手紙が寄せられた。萩尾さんは「皆がそれぞれ、内面の孤独に向き合って生きているとあらためて思いました」と振り返る。

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連載が76年に一旦終了した後も、「続きを描いてください」という声が多く、作家の夢枕獏も会うたびに「読みたいな」と言い続けた。40年ぶりに作品世界に入ると、エドガーたちは変わらずそこにいた。2016年に再開してから10年になるが、目や手の調子が悪く、読者を待たせている現状を謝罪した。

少女マンガに新風を吹き込んだ作品群

ドイツのギムナジウム(高等中学)の少年たちを描く「トーマの心臓」やSF「11人いる!」も20代の頃の作品で、少女マンガに新しい風を吹き込んだ。当時、編集者からはラブストーリーを求められることが多かったが、萩尾さんは子どもの頃からSFや神話、ファンタジーが好きだった。戦後の日本社会は規範から外れないよう努力する環境で息苦しく、「世界は本当にここしかないの?」と探して、シェルターになったのがSFや神話、ファンタジーだったという。

また、父は優しかったが「女の子は勉強できなくていい」と言う人で、両親はマンガで稼ぎ始めたことに驚き、「結婚しないのか」「仕事を辞めないのか」と言い続けられた。自分の好きなことをやり、誰にも迷惑をかけていないのに、女は辞めなければいけないのかと疑問を抱いていた。

「トーマの心臓」では、少女を主人公にすると行動に理由が必要だったが、自由な少年たちを描くことで、自分にも差別する心があると気づいたと語る。

創作のプロセスと音楽の感覚

20代は勢いで描けたが、30代になると絵も作品も古くなり引退を考えつつも描き続け、40代では体力が落ちてもまた描いた。仕事と描きたいものが常にあり、4年に1回くらいしんどくなってやめようと思うが、乗り越えてまた描きたくなるという。

面白いマンガは絵と物語と「音楽」が一緒にやって来て、感性にすっと入る。萩尾さんは読者の呼吸を意識し、コマ割りと構図、セリフの位置などを何度も繰り返し、過不足なく収まった時の快感を語る。世の中は公平に生きたいが不公平で、自由に生きたいが不自由で、傷つくと「傷つくな」と言われる不条理にも関心を持ち続けている。

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「残酷な神が支配する」と「なのはな」

40代から9年かけて描いた「残酷な神が支配する」は最長の長編で、虐待された少年の絶望を多彩な絵で表現した。テーマにためらいつつ連載を始めたが、主人公を虐待する義父グレッグを描くのが面白く、自分が家族や社会からぶつけられてきた言葉を描きながら、鬱屈が出ていく感覚を覚えたという。登場人物がもう一人の自分と向き合ったり、自分の死体を見つめたりするイメージを全部描くことができたのも面白かった。

東日本大震災後、福島を舞台にした「なのはな」も話題を呼んだ。当時は「これから日本はどうなるんだろう」という不安があり、希望を持ちたくて描いた。震災から15年、まだまだこれからだと思う。原発については当時も今も心配だと述べた。

マンガ文化の変遷と未来

少女マンガが低く見られていた状況を萩尾さんたちの作品が変えたが、本人は比較がピンとこないタイプだった。「自分が感動したから、追従したい、しもべになりたいという気持ちです。世の中からどんなふうに見られても、私はマンガを愛しちゃった。誰が何と言おうと、ものすごく幸福なんですもの」と語る。少女マンガを読めない男性もいるが、もったいないと笑う。

日本芸術院のマンガ部門新設には驚いたが、手塚治虫がいたからだと感謝する。マンガは日本の財産であり、海外の読者が面白がってくれるので、どんどん発信してほしいと願う。デジタル技術によりどこでもマンガが描けるようになり、AIを使う試みも始まったが、面白くなるかはやってみないと分からないと慎重な姿勢を見せる。

最後に「マンガは人間が考えたことをなんでも表現できる。いろんな人が描くことができる。これからも面白い作品を読みたいし、私も体調や体力と相談しながら、描き続けていきます」と決意を述べた。

プロフィール

萩尾望都(はぎお・もと)1949年、福岡県大牟田市生まれ。69年にマンガ家デビュー。「ポーの一族」「トーマの心臓」「11人いる!」「半神」「残酷な神が支配する」「バルバラ異界」など著作多数。繊細で美しい絵と心理描写、壮大なSFで性別を問わず支持される。2012年に紫綬褒章、19年に女性マンガ家で初の文化功労者、24年に日本芸術院会員。22年には米アイズナー賞「コミックの殿堂」を受賞するなど海外での評価も高い。スケッチや創作メモを集めた画集が刊行中。10月28日から国立新美術館(東京)で山岸凉子、大和和紀との3人展「少女漫画・インフィニティ」が予定されている。