「私たちは創造的な生き物」八木沢里志さんを解き放った一冊
「私たちは創造的な生き物」八木沢里志さんを解き放った一冊

「私たちは創造的な生き物」――この言葉が、長いスランプに苦しんでいた作家・八木沢里志さんの心を優しく解き放った。きっかけは、ジュリア・キャメロン著、菅靖彦訳の『ずっとやりたかったことを、やりなさい。』(サンマーク出版、1650円)との出会いだった。

創作のブランクと恐怖

心身の状態は徐々に回復していたものの、小説の執筆から数年間離れていたブランクは大きく、創作の感覚を取り戻せずにいた。「創作の感触もわからなかったし、書こうとすること自体が怖いという気持ちは変わらなかった」と八木沢さんは振り返る。新たな作品を書きあぐねていた時期に、この本と出会った。

著者は小説家、脚本家、映画監督としてマルチに活躍する人物で、創作活動を目指す人々の背中を押す内容だ。読み始めて八木沢さんは驚いた。「自分で言語化できなかったことが、そのまま書いてある」と。

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否定的な思い込みを手放す

本書では、否定的な思い込みや自分に対する疑いを取り除き、創造性を回復する方法が説かれている。特に、クリエイターを特別視せず「私たちは創造的な生き物」と語りかける言葉は、苦しむ心に優しく響いた。「アーティストとしての敷居をすごく低くしてくれた。僕自身も、『今日は1行書くことができたから、自分は作家だ』と思う勇気が得られた」と八木沢さんは語る。

やがて考え方にも変化が生まれた。「食えなければアーティスト、作家ではない」という自らを縛る固定観念が徐々に消えた。「もう一度物を書くのが好きな人に戻って、売れなくても、本が出なくてもいいから、自分が納得した作品が書きたい」。意識を変えたことで、スランプから脱していった。

海外での成功と新たな自信

すると、回復と軌を一にするように、デビュー作『森崎書店の日々』が海外で人気を集めるようになった。「気分が落ちていた時期だったら、ヒットしても受け止められなかったかもしれない。もちろんデビュー作だから拙い部分はある。でも、作品に魅力があったことを受け入れられる精神状態になった」と振り返る。

新作『ペンション・ワケアッテ』(ポプラ社)を完成させたことで、執筆の感覚も自信も取り戻した。小説を書くペースも上がり、5月には銭湯を舞台にした『まねき湯 しあわせを呼ぶ番台猫』(ハーパーBOOKS+)を刊行。銭湯の湯気とともに心がほどけていく、ハートウォーミングな物語だ。

「すごくしんどい日々もあったけど、自分と向き合う時間でもあった。無駄ではなく、全部意味があったと、いまでは思う」。苦しんだ日々を乗り越えた作家が紡ぐ小説は、疲れた人の心に自然体で寄り添う。(川村律文)

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