ドリトル先生の新訳が示す「他者理解の倫理」とは?生物心理学者が語る3冊
ドリトル先生の新訳が示す他者理解の倫理とは?

生物心理学者の岡ノ谷一夫さんが、自身のポケットに常備する3冊の本を紹介する。それぞれが、沈黙や無駄話、秩序の読み解き方を通じて、世界の見方を変えてくれるという。

『ドリトル先生アフリカへ行く』の新訳が描く「do little」の深層

ヒュー・ロフティング著、小川高義訳(新潮文庫、693円)。ドリトル先生の名は「do little」、すなわち「あまり働かない」とも解釈できる。岡ノ谷さんは、新訳ではこのニュアンスがより際立っていると感じたという。先生の本領は動物と話す能力そのものではなく、動物が語らないことを理解し、その沈黙の奥にある意図を読み取る力にある。動物は語らないからこそ、軽々しく語らせてはならない。そこに「do little」の真意がある。この作品は、他者理解の倫理をめぐる寓話だと気づかされたと語る。

『無人島、研究と冒険、半分半分。』:冗談が観察と推論に変わる瞬間

川上和人著(集英社文庫、990円)。著者は自らを怠け者と称するが、南硫黄島での鳥類調査の姿はまさに働き者。冒険活劇風の語りは単なる装飾ではなく、調査地の過酷な環境そのものを描写している。冗談のつもりが、いつの間にか観察と分類、推論へと変わる。そのため「ハエ時々クロウミツバメ」という一見意味不明な章題も、緊迫した現場から生まれる叫びなのだと岡ノ谷さんは解説する。

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『天文学の誕生』:イスラム圏が育んだ観測と幾何学の技法

三村太郎著(講談社学術文庫、1100円)。宇宙に目を向けると、イスラム圏では宇宙を神の創造した秩序と捉え、数学的に読み解くことが天文学を支えた。礼拝時刻や暦、メッカの方角を定めるには天体の運行が不可欠だった。地球中心説は標準的枠組みだったが、絶対視はされなかった。そこで培われた観測と幾何学的モデル化の技法は、後のコペルニクス的転回の前提となる。人間は筋道を通したい生き物であり、沈黙のうちに意図を読み、無駄話のうちに自然を分類し、星の運行のうちに神の秩序を読む。その筋道の通し方の多様性が、世界を少し楽しくしていると岡ノ谷さんは締めくくる。

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