牢獄での緊迫した対峙、真相解明への執念
「また来たのかい。雁首揃えて。よっぽど暇なんだねぇ」と、お粂は穿鑿所に引き出されるなり悪態をついた。惣十郎はこの言葉を軽く受け流し、牢屋同心に筆墨と紙を準備させ、お粂の前に据え付けた。
「お前がかつて、弓浜さんたちと造ろうとしていたものの図を、ここに描いてくれめぇか」と、惣十郎は穏やかながらも強い口調で依頼する。これに対して、お粂は鼻を鳴らして反応を示した。
罪の晴らしへの懐疑と執念の理由
「あんた、まことにあたしの罪を晴らそうってのかい。一度お裁きが下ったことだ、ひっくり返るわきゃないだろ。捕まってもう五年も経ってンだ。だいたいなんだってあんたが躍起になってンだよ」と、お粂は疑念を露わにする。隣にいた崎岡は「そら、俺と同じことを言うじゃねぇか」と嘲笑った。
惣十郎は「俺はね、まことのところを知りてぇのよ。でないと、気持ちが悪くてよ。すまねぇが、俺のために力を貸してくれめぇか」と、率直な心情を語る。この「俺のため」という言葉に、さしものお粂も面食らった様子だった。
「なんであんたみたいな腐れ役人のために……」とお粂が言いかけると、惣十郎は「それと、山背さんのためでもある。墓はこっちにあるんだってな。墓守が誰もいねぇじゃあかわいそうだろ。弓浜さんにしたって、来年にゃあ彦根に戻る。そうすりゃ、墓は荒れ放題だぜ」と続けた。
山背への思いと深い絆
お粂は、膝に置いていた手を強く握りしめ、細かく震えているのが見て取れた。惣十郎は「お前と山背が、いかに強く信じ合ってたか、俺は推し量ることしかできねぇが、山背がお前を心底から大事に思ってたってことだけはわかる。それでなけりゃ執念でお前を探すこたぁなかった。河岸見世まで追いかけることもなかったはずだ」と語りかける。
「河岸見世」という言葉に崎岡が眉をひそめたが、惣十郎は構わず「お前もきっと、山背のことを慕っていた。心底からそう思ってたろう、ってさ」と続けた。この物言いに、お粂は怪訝な顔をみせた。
「こいつぁうちの下女の受け売りだ。お前たちの係り合いを話したら、お前も山背を心から尊んでいたろうと、こう言ったさ」と、惣十郎は説明する。先だって訪ねてきた隼太も、山背とお粂には深いものがあると、わかったふうな口を利いていたことを思い出す。あのとき、隼太はお雅を覗き込むような仕草をしたが、その理由は不明のままだ。
「うちの下女の見立てが当を得てるとしたら、山背の墓に参ることもできねぇのは辛ぇはずだぜ」と、惣十郎は最後に締めくくった。この言葉が、お粂の心にどのように響いたかは、次回の展開が待たれる。



