第十八章 裏切りと空っぽの部屋
森の木々が赤や黄に染まり、葉を落としても、鳥の巣はホテルに滞在し続けた。一般客室ではあったが、サングラスの軍人は半年分の宿泊費を前払いし、飲食や洗濯などの費用はまとめて請求するよう指示していた。
ホテルの施設利用が制限されているわけではないのに、鳥の巣はほとんど部屋から出てこなかった。ルームサービスも頼まず、朝食会場から持ち帰ったパンや林檎を部屋で食べ、清掃を依頼する時だけ部屋を出てテラス席で湖を眺めていた。時折、就寝後の静かなホテル内を、痩せた体を引きずるように歩く姿が従業員の目に留まった。雪がちらつき始め、テラス席が凍てつく寒さになると、鳥の巣は森へ散歩に出かけた。
「『精鋭部隊』の一員だったのに、今や優雅なホテル暮らしか」
散歩から戻り、すぐに部屋へ戻ろうとする鳥の巣に、金ボタンが冗談めかして声をかけた。鳥の巣は見えない壁に阻まれたかのようにぎこちなく立ち止まり、金ボタンを見た。その目には虚ろな沈黙が漂っていた。
「ほら、針金の」
「ああ、清掃係のことか」
ようやく安堵した表情で鳥の巣が言葉を発した。上唇をゆっくりと持ち上げ、笑顔とは見えない笑顔を作ろうとする。
「逃げ出したお前を森で捕まえたよな」
「そうだね」
鳥の巣は短く同意し、「で、なんだっけ?」と尋ねた。
「……いや、なんでもない。明日の夜は非番だ。街に遊びに行かないか?」
「遊び」と鳥の巣はなぞるように繰り返し、「ごめん」と首を振った。「なんだか、ひどく眠いんだ」
鳥の巣は目を伏せ、「じゃあ、また」と言い残し、部屋のある階へと階段を上っていく。彼は決してエレベーターを使おうとしなかった。



