東京都杉並区立小学校で6年生の悠真さん(仮名)が2年生の春に受けたとされるいじめについて、区教育委員会は3月末、いじめ防止対策推進法に基づく「重大事態」の調査報告書をまとめた。発生から4年が経過し、学校の対応が後手に回ったために調査が長期化。悠真さんは不登校のまま最上級生となった。家族は「報告書は裏付けなく学校の言い分を記載している」として、区教委の対応に強い不信感を抱いている。
情報共有の「範囲」に食い違い
報告書には、当時の校長が「今回のことは学校内で共有する」と悠真さんの母親に伝えたと記載されている。しかし、実際には校長はいじめ発生当初、副校長や一部の教員にのみ問題を伝え、他の教職員には知らせていなかったことが判明している。母親が記録した当時の会話によれば、校長は「学校で対応します。○○先生と共有してもいいですか」と述べただけで、共有範囲はごく限定的だったという。
「報告書には、事実と異なる校長の説明が漫然と載せられている箇所がいくつもある」と母親は指摘する。被害を具体的に訴えた父母の発言は抽象的な内容に置き換えられ、緊急性が読み取りにくくなっていた。
事実認定の遅れと記憶の風化
いじめ防止対策推進法に基づく重大事態は、いじめにより児童の生命や心身に重大な被害が生じた疑いがある場合などに学校や自治体が認定する。認定後は調査組織を設置し、事実関係を明らかにする調査義務が生じる。
悠真さんは2022年5月以降、複数の児童から殴る蹴るなどの暴力を受け、不登校となった。当時の校長は「学級が落ち着かない状況での児童同士のトラブル」と捉え、いじめと認識できなかったと説明。加害児童への聞き取りが遅れ、重大事態の認定まで1年を要した。
その後、弁護士や福祉、医療の専門家らで構成される区の第三者委員会の調査が始まったが、子どもたちの記憶は薄れ、事実認定は難航した。2023年末に家族に示された報告書原案も不備が多く、さらに2年半近い時間が流れた。
ようやく報告書が公表されたのは、悠真さんが6年生になる直前の今年3月末。内容は家族が求めていたものとは程遠く、父母が指摘していたいじめの前兆なども盛り込まれなかった。
第三者委員会の構造的限界
不十分な報告書が示された背景には、第三者委員会の構造的な限界がある。委員は別に本業を持つボランティアに近い立場で、当初は定員7人を下回る5人だけだった。限られた人員で対応が遅れ、現在も9件の重大事態が滞留している。区は委員を7人に増やし、専門調査員を設けたが、抜本的な体制強化には至っていない。
家族は今後、弁護士を通じて報告書に対する所見書を区に提出し、再調査を求める方針。再調査に入るかどうかは区長の判断となる。
岸本聡子区長は今月6日、区ホームページでメッセージを発表し、「過去の対応には課題があった。学校と教育委員会を確実に支え、被害児童・生徒の継続的な支援に全力を挙げて取り組む」と述べた。



