重い病気の子どもたちに楽しい時間を提供する「TSURUMIこどもホスピス」(大阪市鶴見区)の運営団体は、高場秀樹さん(58)が2010年に設立した。長男の宗一郎さん(19)は重度の脳性まひで、医師から「将来立って歩くことも、しゃべることもできない」と告げられたことがきっかけだった。
英国のホスピスに触発され、医師らと始動
2009年、大阪市中央公会堂で開かれた英国のこどもホスピス「ヘレンハウス」創始者の講演を聴き、「宗一郎に優しい社会を残したい」と決意。会場にいた医師らと動き出し、翌10年に一般社団法人「こどものホスピスプロジェクト」を発足させた。高場さんはIT関連会社や飲食店経営の経験を活かし、代表に就任した。
資金集めに奔走、ユニクロと日本財団から5億4000万円
当時、こどもホスピスの認知度は低く、資金集めは難航した。しかし、事業者や個人に「病院ではなく、子どもたちの『家』」と訴え続け、2013年にユニクロと日本財団から施設建設費・運営費計5億4000万円の寄付が決定。開設の目途が立った。
2016年4月、TSURUMIこどもホスピスがオープン
オープンから5か月後、小児がんの2歳男児の親から「子どもとピクニックがしたい」と電話が入った。高場さんらは急遽、芝生の中庭にパラソルとレジャーシートを用意。晴れ空の下で弁当を楽しむ家族を見守り、「こんなシーンをたくさんつくるんだ」と誓った。
実績を積み、2019年に同プロジェクトは公益社団法人となった。
看護師・西出由実さん「その子を丸々受け入れる存在でありたい」
看護師の西出由実さん(43)はオープン前からのメンバー。以前の病院では治療が最優先で、病状が厳しい子どもが「家に帰りたい」と訴えても叶えられないもどかしさを感じていた。そんな中、知り合いを通じてTSURUMIとつながり、声をかけられた。
2017年から利用し、19年に7歳で亡くなった脳腫瘍の根岸歩乃果さんの言葉が今も心に残る。「頑張ってるのに頑張れって言われたくない」「手術がすごく怖いんだ。どうしたら怖くなくなるか、一緒に考えて」。幼い子どもの苦しさや死への恐怖に改めて気づかされた。
こうした経験から、TSURUMIでは「子どもと家族の願いを聴き、一緒に考え、かたちにすること」をモットーに。西出さんは「その子のことを丸々受け入れる存在であるだけでいい」と自らに言い聞かせている。
亡くなった子どもは104人、遺族がスタッフに
TSURUMIを利用後、亡くなった子どもは2025年度末時点で104人。遺族の中にはスタッフやボランティアとして関わる人もいる。2023年に脳腫瘍の次男・瑞君を9歳で亡くした安在志織さん(49)もその一人だ。
瑞君は余命宣告後、約2か月間TSURUMIに通った。車いすだったがキャッチボールをして喜んだ。志織さんもスタッフから「おいでよ」と声をかけられた。瑞君の死後、スタッフ募集を知り、「厳しい状態の子がいる場所に耐えられるか」と悩んだ末、感謝の気持ちから応募。昨年から運営に関わり、「瑞を思いながら働ける幸せを感じています」と語る。
10年間の寄付と今後の展望
TSURUMIにはこの10年間、多くの企業や個人から寄付が寄せられた。高場さんは「皆さんの思いが子どもたちに届くよう、これからも誠実に活動していく」と前を向く。
全国普及へ向けた動き
2023年12月に閣議決定した「こども大綱」では、「こどもホスピスの全国普及に向けた取り組みを進める」と明記。こども家庭庁は2024年度以降、自治体への補助を予算計上している。



