新年度が始まり、多くの商品やサービスが値上げされ、買い物で「高い」と感じる機会が増えている。ここ30年の消費者物価指数を振り返り、物価の変遷を追った。
うなぎ丼は800円から1800円に
東京・新橋の「うなぎ市松」は1966年創業の老舗だ。自家製のさっぱりしたタレで蒸したかば焼きが香ばしいランチメニュー「鰻丼(うなどん)」(税込み1800円)は、会社員に人気を博している。店主の長谷川知幸さん(54)が働き始めた約30年前、この鰻丼は800円だったという。会社員が気軽に食べられるよう価格を抑えてきたが、赤字になることもあり、仕入れ値の上昇に合わせて200円ずつ値上げを重ねてきた。
「会社員の懐が潤っているようには見えないので、ランチで食べられる価格に抑えたい。しかし、米も油も値上がりしている。物価高もここら辺で止まってほしいというのが本音です」と長谷川さんは語る。
82%の品目が値上がり、2倍超も23品目
総務省が食品や光熱費、教育などの値段の変化を数値化した「消費者物価指数(CPI)」によると、うなぎのかば焼きの値段は1991年から2025年までに約2.5倍になった。この間の物価の変化を比較可能な387品目で調べると、上昇率が2倍を超えたのは23品目あった。特に値上げが大きかったのは「たばこ(国産品)」と「さんま」で約2.6倍。次いで「灯油」が約2.5倍、「わかめ」と「水道工事費」が約2.4倍だった。
そのほか、1.5倍以上~2倍未満が107品目、1.0倍以上~1.5倍未満が188品目で、全体の82%にあたる318品目が値上がりしていた。
値上げの理由はさまざま
統計局などによると、うなぎのかば焼きは稚魚の減少を背景に徐々に値段が上がってきた。一方、米は消費減少で下落傾向が続いていたが、2023年の猛暑による不作をきっかけにここ数年で急騰した。値上げや値下がりとは別に、毎年の値段のぶれが大きかったのは「はくさい」「キャベツ」「レタス」「たまねぎ」など、生育期の気象条件に大きく影響される葉物野菜で目立った。
一方、「ケチャップ」「粉ミルク」「せんべい」といった加工品は値段のぶれが小さく、特に「カレーライス(外食)」「ハンバーグ(外食)」などは値段が安定していた。
「失われた30年」と賃金の停滞
ここ30年超を見渡すと、値上げが激しくなったのは近年になってからで、日本はバブル崩壊後の1990年代から、物価や賃金が上昇しない傾向が長く続いていた。2010年時点で値段が上がっていたのは55%にあたる213品目で、2020年時点でもまだ71%の276品目だった。消費者物価指数の総合指数も2020年代に入るまで110%を超えることはなかった。
また、厚生労働省の毎月勤労統計によると、従業員5人以上の事業所で働く人(自営業やフリーランスを除く)の賃金を基に計算した「購買力」を示す実質賃金指数は、この間に約1割減少した。物価上昇に賃金の伸びが追いついておらず、この間は「失われた30年」とも呼ばれる。
企業努力が物価を抑えた側面も
横浜市立大学でマクロ経済学を研究する中園善行教授によると、日本はバブル崩壊以降、「雇用を守る代わりに賃金を抑える」ことを社会全体で受け入れた流れがあった。失業率の急上昇を抑えた一方で、賃金は伸び悩み、正規・非正規の格差も広がった。2000年代になると、低金利や法人税の引き下げといった政策がとられ、企業の収益は大きく改善した。円安で原材料費が高騰した時期でも、すぐに価格転嫁はせず、企業が吸収したり技術開発で対応する傾向が強かった。
中園さんは「この間に物価が安定していた要因の一つとして企業努力が挙げられる。物価が急騰しないことは家計の視点でもメリットだった」と話す。しかし、従業員の賃上げは後回しになり、米国のように需要増で物価が上がる動きにはならなかった。
2022年以降、状況が一変
ロシアがウクライナに侵攻した2022年以降、状況は大きく変わった。原油高と円安が同時に進行し、値上げもやむなしという意識が広がり、物価上昇が一気に進んだ。中園さんは「緩和的な金融環境が続いており、足もとの為替レートも円安が持続している。値上げは企業の収益につながり、市場にはインフレが今後も続くという期待感も生まれつつある。今後の焦点は、企業の収益がどれだけ賃金や家計に還元されるかでしょう」と語った。
群馬県が注目される理由
物価上昇を受けて、注目を集めているのは群馬県だ。総務省の「消費者物価地域差指数」では、群馬県が全国で最も物価が低い地域として知られている。しかし、近年の物価上昇でその差は縮まりつつあり、地域経済への影響が懸念されている。



