猛暑を避け、本州の農業法人が北海道へ移転
北海道内では、夏の猛暑により栽培が困難になった野菜や果実の生産拠点を、本州から移す「農業カンパニー」が増加している。京都市の農業法人「こと京都」は4月、伊達市南稀府町で伝統野菜「九条ねぎ」の栽培を開始した。九条ねぎは奈良時代に現在の京都市伏見区周辺で栽培が始まったとされ、1300年以上の歴史を持つ。京都は元来夏の暑さで知られるが、近年は夜間も気温が30度以下に下がらない日が続き、ネギの適温(15~25度)を超える状況が続いている。このため、同社は冷涼な伊達市への進出を決めた。
伊達市での栽培と今後の展望
伊達市は夏に30度を超える日があっても、夜間は20度前後まで下がる。今年は4ヘクタールで作付けし、約100トンの出荷を見込む。将来的には10ヘクタール、約300トンまで拡大する計画だ。駐在する山田祐揮常務(36)は「生産が厳しい夏に本州向けの出荷を考えていたが、道内にない青いネギは消費者にも喜ばれており、道内出荷もしたい」と語る。さらに「弊社の農場に本州から多くの企業が視察に来ており、今後も道内進出は増えるのではないか」と予測する。農業カンパニーが伊達市に進出するのは、こと京都で3社目。同市は有珠山由来の火山灰土壌による水はけの良さと、四季を通じて温暖で冬の降雪が少ない利点を生かし、70種もの「伊達野菜」を栽培している。
他の地域への進出事例
2025年には広島市の「村上農園」が進出し、南稀府町のビニールハウスで豆苗やブロッコリーの新芽「スプラウト」を生産している。九条ねぎと同様、夏の高温で広島では生産が難しくなったのが理由だ。今年1月には津市の「浅井農園」が伊達市館山下町でミニトマト専用の巨大ハウス(約1万6000平方メートル)の稼働を始めた。伊達市以外でも、日本製鉄の関連会社「日鉄興和不動産」などは2025年12月、室蘭市に農業カンパニーを設立。5月から同市幌萌町でリンゴ栽培を開始した。本州では猛暑などで生産量が減り、冷涼な室蘭での生産を決めた。社有地や他の農地も加え、10年後に100ヘクタールで栽培する計画だ。一方、千歳市ではカゴメ(名古屋市)が国産トマトの加工工場の建設を7月に始め、2028年に稼働させる予定。トマトジュースなどの原料になるトマトピューレやペーストを製造し、年間最大約6000トンの生産を目指す。同社によると、那須工場(栃木県那須塩原市)に加えた新たな製造拠点となり、岩見沢市など生産地の近くに加工体制を構築するのが狙い。近年の気候変動で国内の既存産地では加工用トマトの安定確保が難しくなっているのも理由という。
専門家の見解
こうした動きについて、松井博和・北海道大名誉教授(農学)は「冷涼を好む野菜は本州では高緯度で栽培されるが、近年の夏の気温上昇は限度を超えつつある。一方、かつて農作物に低温障害が起きていた北海道は、今やほどよい栽培地に変わり、道内を適地とする農作物の増加傾向はしばらく続くと思われる」と話す。



