東京都町田市に「憲法九条の碑」が設置される
東京都町田市の野津田公園に面した歩道脇に、新たな石碑が建立された。その名も「憲法九条の碑」。4月4日に除幕式が行われ、多くの市民が集まった。碑の中心には、ほうきを持った7人の妖精たちが空を飛ぶ姿が金属板にエッチングで刻まれている。タイトルは「戦争の放棄」。この作品を手がけたのは、画家・絵本作家の長谷川知子さん(79)だ。
妖精たちが手にするほうきは、憲法9条が定める戦争の「放棄」を象徴している。長谷川さんは「妖精たちがほうきで争い事を掃除している姿を表現した」と語る。碑の隣には、同市在住の音楽家が作詞・作曲した歌「ほうきの約束」の歌詞も刻まれ、動画も公開されている。
きっかけは9.11テロ
長谷川さんはこれまで政治的なメッセージを作品に込めてこなかった。しかし、2001年の米中枢同時テロが転機となった。当時、息子がニューヨークに住んでおり、就職活動中にテロに遭遇。平和な社会がいつ崩れ去るか分からないという衝撃を受けた。
その後、2005年に家族でグラウンド・ゼロを訪れ、現場の空気に触れた。「シンプルに『怖い』という言葉しか出てこなかった」と振り返る。また、2003年のイラクへの自衛隊派遣にも疑問を抱き、「憲法違反ではないか」と感じた。
「憲法九条はわたしたちの宝もの」
2008年に結成された「子どもの本・九条の会」と出会い、長谷川さんは活動に共感。2015年の安全保障関連法に抗議するデモにも参加するようになった。そんな中、児童文学作家の神沢利子さんが中心の創作集団に、今回の碑の原型となる「ほうき」の絵を出品。これが「町田に憲法九条の碑をつくる会」との交流につながった。
長谷川さんは、現在の憲法9条の危機を強く感じている。高市早苗首相が改憲発議に意欲を示す中、「日本の憲法は素晴らしいのに、なぜ条文を折り曲げようとするのか」と懸念する。
憲法9条がもたらす「歯止め」
米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃に対し、長谷川さんは憲法9条の重要性を強調する。「9条があるから、日本は『戦時中のホルムズ海峡には行けません』と言える。もし歯止めがなくなったら、どうなってしまうのか」と強い怒りをあらわにする。
画家としての歩み
長谷川さんは北海道北見市に生まれ、高校卒業後、武蔵野美術短大で商業デザインを学んだ。一度は地元で美術の臨時講師を務めたが、画家の夢を捨てきれず再び上京。学習雑誌の挿絵など下積みを経て、絵本作家の道へ進んだ。女性差別が少ない業界に助けられ、創作を続けてきたという。
「平和」という言葉を使わない理由
長谷川さんはこれまで、作品の帯に「平和」という単語を入れることを断ってきた。その理由を「『平和』の文字を目にすると、人はそこ以外を見なくなってしまうから」と説明する。「平和」は政治的に利用され、軍事費増強や戦争の正当化につながることがある。真の平和は、人々が安定して暮らせる日常そのものだと長谷川さんは語る。
碑に刻まれた妖精たちの表情は、ほほ笑みながらも強い意志を感じさせる。争い事を掃除する妖精たちは、まさに憲法9条の精神を体現しているかのようだ。



