文楽人形遣い・桐竹勘次郎さん、入門20年で大役…「義経千本桜・道行初音旅」
舞台俳優を目指していた大学時代、人形浄瑠璃文楽との出会いが人生を変えた。人形遣い・桐竹勘次郎は、文楽に魅せられ、研究生として学業と両立しながら修業した経験を持つ。入門から20年が過ぎた。6月、国立文楽劇場の「若手会」で、女形の大役、「義経千本桜・道行初音旅」の静御前に初挑戦する。
静岡県富士市出身の勘次郎さんは、高校時代は演劇部に在籍し、日本大学芸術学部に進んで舞台俳優を目指した。カリキュラムの一環として、伝統芸能を学ぶために東京・国立劇場を訪れたのは大学1年生の時。そこで「伊達娘恋緋鹿子」、通称「櫓のお七」の女形人形の表現に心を打たれた。恋の情念に燃え、一心不乱に火の見櫓を登っていくヒロインを人形遣いが櫓の背後に隠れて操る姿に、「こんな芸術があるんだ。人形が人間の表現を超えている」と衝撃を受け、以来、国立劇場に通い詰めた。
「演者になりたい」との思いが募り、大学3年の時、憧れの人形遣い・桐竹勘十郎に弟子入りを願い出た。熱意が通じ、学生のまま研究生として入門することが決まる。大学は中退覚悟だったが、両親が卒業することを望んだため、授業と修業の二足のわらじに挑んだ。卒業後、正式に技芸員(演者)として契約した。
入門から15年ほどは、足遣いを経験し、近年は師匠・勘十郎を始め、先輩方の左遣いとしても研さんを積む。昨秋は「恋女房染分手綱」の三吉役で、母・重の井を演じる師匠と共演。師の息づかいや間の取り方を至近距離で見つめ、学ぶことができた。
1月、若手会の配役表が入った封筒を開けると、まさかの「静御前」役に名前があった。憧れの役だけに「怖い」と身震いした。師匠に報告に行くと、「えらいで(大変だ)」「稽古しなあかんな」と叱咤された。
大学時代に日本舞踊を学んだ経験が、道行を始め、景事物と呼ばれる舞踊劇に生かされている。人形の振りを、まず自分の身体にたたき込み、イメージを膨らませて人形に移していく。
静御前は、満開の桜の吉野を、源義経の忠臣に化けた狐忠信と旅する。浅葱幕の振り落としによる幕開きは、板付きで桜景色の中に立つ。師・勘十郎の静御前は、冒頭で舞台が一気に華やいだ。師から注意を促されたのは、人形の目線をどこに定めるかだ。「動かす時に、目線がずれてしまうと、人間らしさが失われます。義経を魅了するほどの白拍子の舞手であることや、全身からあふれる気品を大事にしたい」
女形遣いは、自分の肩も縮めて可動域を制限した状態で人形を操る。無理な姿勢が続いて腰痛を起こす演者も多い。防止するためにも、体幹を鍛えるトレーニングを欠かさない。「まだまだ、とても師匠のまねはできない。まねしようとしても技量が伴わないので崩れてしまう。基本を忠実に守り、ほんの少しでも師の静御前に近づくことができたなら」と語る。
師の背中を追いかけて、日々努力を重ねている。
プロフィール
桐竹勘次郎(きりたけ・かんじろう)1983年、静岡県生まれ。2005年、桐竹勘十郎に入門し、文楽協会研究生となる。翌年、桐竹勘次郎を名乗り、国立文楽劇場で初舞台を踏む。2019年度大阪文化祭賞、2015、2020、2023、2024年度の文楽協会賞受賞。
公演情報
文楽若手会は6月20、21日、大阪・国立文楽劇場で開催。演目は「御所桜堀川夜討・弁慶上使の段」「摂州合邦辻・合邦庵室の段」「義経千本桜・道行初音旅」。問い合わせは0570-07-9900。



