滝川から札幌へ、寿司職人の新たな挑戦が始まる
移転をこれほどまでに歓迎される店は、そう多くはないだろう。2026年1月8日、札幌市中央区の円山エリアにオープンした「鮨おくの」は、滝川市で約10年間にわたり営業を続けてきた寿司店である。滝川時代から、札幌や道外の寿司通がわざわざ足を運ぶ名店として知られていた。
50歳の節目に選んだ札幌での挑戦
店主の奥野恒康さんが50歳という節目に札幌移転を決断した背景には、職人としての新たな試みがあった。奥野さんは「札幌でどこまでできるのか、自分自身を試してみたいという思いがありました」と語る。勝負や挑戦といった強い言葉ではなく、「もう半歩前に進んで磨きをかけていきたい」という控えめな表現は、まさに奥野さんらしい。その静かで芯の通った思いは、端正な寿司や料理、美しい器や店内の設えにも如実に表れている。
おまかせコースのみの完全予約制
同店のメニューはおまかせコース1種類のみ。前半が料理5品、後半が握り11貫と玉子という構成だ。奥野さん一人ですべてをもてなすため、完全予約制を採用。1日1回転、一斉スタートとなっている。
料理の一例を挙げると、桂むきにした大根でブリを巻いた美しい「ぶり大根」や、魚介それぞれにひと手間かけた「酒肴4種盛り」など、素材の持ち味を最大限に活かした上品な味付けが印象的である。
繊細な技が光る握りの数々
握りの1貫目は、繊細な飾り包丁を施したイカ。イカの甘み、煮切り醤油や酢飯の風味が円いうま味を描き、消えていく。何とも穏やかで優雅な寿司だ。
酢飯には故郷・滝川産の米と米酢を使用。ネタに寄り添い、最後まで食べ疲れない塩梅を大切にしている。ネタは高級な魚種と、手をかけることで味わいを増す魚種をバランスよく組み合わせる。
内陸の立地を逆手に取った独自の仕込み
例えばイワシは、塩で締めた後、数回に分けて酢に浸す。これにより小骨が気にならなくなり、身の中まで優しくしっとりと酢が回る。こうした独自の仕込みは、魚の仕入れに制約があった内陸という立地を逆手に取り、編み出されたものだという。その経験を積み重ね、現在の「おくの」のスタイルが形作られている。
住宅地に佇む静かな存在感
看板も暖簾もない店舗だが、柔らかく灯る明かりが住宅地に静かな存在感を放っている。間もなく桜の季節を迎える。この一軒を訪ねる楽しみが、また一つ増えそうだ。
店舗情報
- 住所:札幌市中央区南3西25の1の28
- 電話:011・600・1858
- 営業時間:午後6時半からの一斉スタート
- 定休日:日曜定休・不定休あり
- 予約方法:予約サイト「TERIYAKI Booking」を推奨(Instagramのメッセージでも可能)
- メニュー:おまかせコース18,700円(税込)
- ドリンク:日本酒半合660円から、空知エリアのワインも用意



