惣十郎浮世始末 第282回 奉行所から早帰り、女心の謎に悩む惣十郎
惣十郎浮世始末 第282回 早帰りの惣十郎、女心の謎に悩む

奉行所から早帰りの惣十郎、女心の謎に思い悩む

秋らしくからりと晴れたある日、惣十郎が奉行所から戻ってきたのは、いつもよりずっと早い日暮れ前のことだった。お雅は朝から多津の布団を干し、彼女の体を拭き清め、部屋を掃き、布団を取り込むと、八つ過ぎに夕餉を済ませる多津のために粥を炊いて食べさせ、ようやく人心地ついたところであった。

「あれ、お早いですね。お迎えにも行けず申し訳ございません」

ちょうど買い物から戻った佐吉が詫びても、惣十郎は生返事を放ったきり。脱いだ羽織をお雅に渡すときも、「お夕飯、すぐ支度いたします」と声を掛けられたときも、心ここにあらずといったふうだった。

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手早く整った夕餉も、惣十郎の心は晴れず

佐吉が買ってきた豆腐は冷や奴にし、刻んだ茗荷をたっぷり載せた。鰯の丸干しはこまめにひっくり返しながら焼き、油がしたたってきたところで火から下ろして皿に移す。幸い昼のうちに鰹と昆布で出汁はとってあったから、朝炊いた冷やご飯を出汁茶漬けにした。佐吉が配膳も手伝ってくれたおかげで支度は速やかに調い、惣十郎を長く待たせることなく済んだと、お雅は胸をなで下ろした。

しかし、膳を前にしても、彼はいつものように「旨そうだ」と目尻を下げることもない。灰がかった瞳を宙に泳がせ、「どういうもんかねぇ」と、口の中で言葉をこねている。

「どうなすったんです、旦那。さっきから妙ですぜ」

惣十郎の様子を窺っていた佐吉が、とうとう声を掛けた。

お粂の行動に疑問、女心の理解を求める

「いやぁ、お粂がどんな肚だったのか、どうもわからねぇからよ」

「例の件ですか。彦根の」

「ああ。弓浜の叔父ってのが、河岸見世でお粂を見付けて身請けしたんだと。けど、お粂は男女の係り合いになるのを拒んだってンだ。正妻に遠慮してのことでもねぇとしたら、どういう心の動きだろうかと思ってさ」

惣十郎は首を傾げながら、鰯の頭にかぶりついた。カリカリと小気味いい咀嚼の音が立つ。

「そいつぁ弓浜さんの訴えてる盗用とも、お粂が武器を造ってたって疑いとも、係りがないじゃあないですか」

同じく首を傾げて佐吉が返す。

「まぁそうなんだけどよ、気になるじゃねぇか」

お雅はふたりのやり取りを、お櫃の横に座して聞くともなしに聞いていた。と、不意に惣十郎がこちらに向いた。

「うちでお役目の話はしねぇと決めてるんだが、どうにも女心がわからねぇから、お雅、ちょいと教えてくれめぇか」

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