スモーキングルーム第199回:令嬢が天使の部屋へ戻る神秘的な一夜
スモーキングルーム第199回:天使の部屋への帰還 (11.04.2026)

スモーキングルーム第199回:天使の部屋への帰還

千早茜による連載小説「スモーキングルーム」の第199回が公開された。今回の物語では、令嬢がホテルの「天使の部屋」を訪れる神秘的な一夜が描かれている。

金ボタンとの意味深な会話

物語は、令嬢がホテルに到着する場面から始まる。「ただのお客様だよ」と金ボタンが唇を動かさずに返答し、「いらっしゃいませ」と歩み寄る。令嬢は金ボタンが近付くと、はっと顔をあげるが、すぐに美しく平坦な表情に戻った。

金ボタンは「寒かったでしょう。暖炉の前で温かいお飲み物でもいかがですか」と勧めるが、令嬢は「それより、早く部屋へ行きたいわ」と即答する。金ボタンが柔和な笑みを浮かべて「どのようなお部屋をご所望でしょうか。階ごと、ご予約いただいております」と尋ねると、令嬢は「天使の部屋」と即答した。

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「それは、それは、大変お似合いのお部屋かと存じます」と金ボタンが応じる。リボンのついた紙箱や帽子箱を両手に積み上げた蝙蝠がやってきて、大袈裟に頷く。金ボタンが「ご案内致します」と言うと、令嬢は「結構よ」と大階段を仰ぎ、「自分で行けるわ。このホテルはよく知っているの。真夜中に何度も探検したから」と悪戯っぽく笑った。

天使の部屋への鍵と記憶

とんだご令嬢だ、とにやつく金ボタンに、令嬢は手を差しだし、「鍵」と金の睫毛に縁取られた目を細めた。令嬢は赤い絨毯が敷かれた白い廊下を最奥まで進み、客室扉の前で鍵を見つめる。こんなに小さかったかしら、と思う。鍵に刻まれた少年天使の顔は幼いままで、翼に包まれて瞼をとじ、微睡むように唇を薄くひらいている。

この二十年ばかりの間に、どれだけの人がこの鍵に触れ、部屋に入ったのだろう。そんなことをぼんやりと考えながら、令嬢は金の唐草紋様で装飾された鍵穴に鍵を差し込んだ。

少女時代のままの部屋

扉が開くと、半球形状の薔薇色の天井が目に入る。楽器を手にした天使たちが舞い飛んでおり、天空から降ってきたような小花模様の壁紙が広がる。透ける平織布を重ねたカーテンや天蓋が設置され、淡い桃色をした祝福の風にふわりと包まれるような気分になる。「天使の部屋」は令嬢が少女だった頃のままで、時間が止まったかのような雰囲気を漂わせている。

この描写は、令嬢の過去の記憶や情感を呼び起こす重要な要素となっており、物語の深みと神秘性を増している。連載の積み重ねが生み出す世界観が、読者に強い印象を残す展開だ。

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