神奈川県鎌倉市にある栄光学園中学高等学校の軟式野球部は、約80年にわたる伝統を誇る部活動です。部員たちは自分に不足している要素を補う練習メニューを自ら考え、部活動の中で必要なことに幅広く注意を払い、時には本音での話し合いを通じて人間力を高めています。四半世紀にわたり顧問を務める教員と、昨年秋の関東地区大会で準優勝を果たした部員たちの活動を詳しく取材しました。
自主練習で自己研鑽
同校の野球部は1947年の開校と同時に発足し、約80年の歴史を持ちます。過去には関東大会で春季2回、秋季2回の優勝を達成し、2003年には夏の南関東大会で優勝して全国大会に出場しました。直近では2025年10月に開催された第66回秋季関東地区高等学校軟式野球大会で準優勝を収め、今後のさらなる活躍が期待されています。
部活動は原則として週2日と定められており、中学生は火曜日と土曜日、高校生は木曜日と土曜日に活動し、それ以外の曜日は基本的に自主練習を行っています。部員数は高校3年生8人、高校2年生11人、高校1年生11人、中学3年生20人、中学2年生14人の計64人です。練習は通常、中学と高校で分かれて実施されますが、高校生は中学生の指導も担当しています。
2001年度から顧問を務める吉田明生教諭によると、同部の練習の特徴は、顧問から細かい指示を受けずに、部員各自が現在自分に不足していると感じる点を補う自主練習を行うことです。吉田教諭は「皆、どうすれば上達するかを相談しながら練習メニューを組み立てています。生徒同士のアイデアには限界があるため、ヒントを与えることはありますが、細かな指示は出しません。筋力トレーニングに励む者もいれば、素振りやティーバッティングで打撃力を強化する者もいます。自分に何が足りないかを考えながら練習することで、受動的な練習が能動的なものに変わります」と語ります。
イップスを克服した捕手
捕手の高浜康太君(高校2年生)は、高校1年生の12月にけん制や盗塁へのスローイングに違和感を覚え、イップスに陥りました。イップスとは、無意識に行えていた動作が心理的要因でできなくなる運動障害です。高浜君は「腕の振りを気にする前に、肩甲骨の柔軟性や股関節の使い方を見直すよう」吉田教諭からヒントを得て、基礎的なスローイングを繰り返し、仲間と練習を重ねるうちに自然と克服しました。現在は調子を取り戻し、秋の関東大会でチームを準優勝に導いた捕手として、東日本の地区大会から選抜される「第2回春の軟式交流試合in甲子園」の選手に選ばれました。
高浜君は「まさか自分が選ばれるとは思っていなかったので、喜びよりも驚きが勝りました。普段は扇の要として仲間の迷いを常に俯瞰するようにしていますが、自分が迷った時には仲間や監督から多くの助言をもらい、とても力になりました」と振り返ります。
人間力向上と視野拡大
吉田教諭は「野球は目の前の課題を仲間と乗り越えるチームスポーツです。味方の悩みをどう解決するか、常に考え、広い視野を持ってプレーできるようになってほしい」と述べます。副主将で投手の岩下宗介君(高校2年生)は、周囲への細かい気配りを心がけています。「部の運営が滞りなく進むよう注意しています。野球は道具の多いスポーツで、試合当日に捕手の防具が不足すれば試合ができません。事前準備の徹底が自分の役割です。また、打撃力強化のための練習メニューなど、チーム力向上に必要なことも考えています」と語ります。
視野が広がると、部員たちは練習や準備などあらゆる面で、吉田教諭が指示を出す前に自主的に動けるようになります。吉田教諭は「一つの指示を出すと先読みして10理解するようになります。生徒が自ら考えて動けるようになった時、成長を強く感じます。安全面に問題のない困り事はどんどん経験し、人間力を高めるきっかけにしてほしい」と期待を寄せます。
野球部には専用グラウンドがあり、年間6日間は公式戦の会場として利用されます。練習試合もグラウンドのスケジュールを確保しやすいため、強豪校が来校することも多いそうです。「公式戦の会場になると相手をもてなす必要があります。関西へ遠征した時などは、相手チームの動きや配慮を学ぶよう指導しています」と吉田教諭は話します。
先輩との対話で学ぶ時間管理
吉田教諭は、部活動を通じて部員たちに自己コントロール力や優先順位を決めて物事を進めるタイムマネジメント能力が養われていると感じています。高校3年生の夏まで部活動をやり遂げた生徒は、引退後の受験勉強にも効率的に取り組めるといいます。
セカンドを務める田村光志朗君(高校2年生)は、先輩との会話から時間の使い方について気づきを得ました。「部活と勉強の両立にはメリハリが大切です。授業中は集中し、野球の時は野球だけを考えます。授業でしっかり理解できれば復習時間を減らせ、その分を野球に充てられます。野球を頑張りたいなら勉強も気を抜かないようにしています」と語ります。
部員同士の話し合いについて、吉田教諭は「本音をぶつけ合い、時には言い争っても構いません。お互いに心の底から理解し合える関係こそが結束力を高めます」と述べます。ミーティングや練習中に意見を交わす姿を見ると、「いいぞ、もっと語り合え」とうれしくなるそうです。「豊かな想像力を持ち、仲間と対話を繰り返しながら、考えの違う人間がたくさんいることを部活動の中で知ってほしい」と願っています。



