山形県沖でクロマグロ漁が最盛期を迎え、鼠ヶ関漁港(鶴岡市)には100キロを超える大型マグロが次々と水揚げされている。夢を追う漁師たちが海へと繰り出す中、20日から21日にかけて、同市のはえ縄漁師、松山武さん(55)の漁に同行し、約200キロの超大物との格闘を目の当たりにした。
絶好の漁日和、豊漁を祈る
「たくさん捕れますように!」。漁具や氷を船に積み込んだ松山さんは、海に日本酒をまいて豊漁を祈った。20日昼前、小型漁船「祐天丸」(2.9トン)が鼠ヶ関漁港を出港。この日は日本海側には珍しい凪で、漁には絶好の好天だった。「暇さえあれば海図を見ているんだ」とハンドルを握る手に力が入る。狙うは日本海を北上するマグロ。自ら探し当てた絶好の釣り場まで片道4時間の距離だ。
松山さんは東京・祐天寺出身で、元イタリア料理人。釣り好きが高じて漁師を志し、鼠ヶ関の親方の下で2年間修業し、2019年に独立した。近年、海水温上昇で大型マグロが庄内沖を回遊するようになり、マグロ漁を主力に据えている。この日は友人の佐藤聡史さん(55)が宇都宮から助っ人として駆けつけた。
「まずは1匹!」、40キロのマグロを釣り上げ
夕方、同漁港から西に数十キロ離れた新潟県の佐渡島北沖に到着。複雑な海底地形によってイカやイワシが集まり、マグロが餌を求めて回遊する場所だ。縄にある120個の釣り針に、一つずつスルメイカを付けていく。日没に合わせ、6キロメートルの縄を投げ入れた。
1時間ほど待ち、機械で縄の回収を開始。しばらくすると縄がピンと張り、マグロが掛かった合図だ。「よし、来たぞ」。縄を手でつかみ、力強く引き寄せる。船の下を旋回する魚影。船の真横に来たタイミングで一気に引っ張り、最後は電気ショックで気絶させ、えらにモリを突き刺して引き上げた。40キロのマグロで、船上は一気に盛り上がった。「まずは1匹!」。その後も100キロ超を1匹釣り上げ、30キロ未満の小型は資源保護のために海に帰した。
終盤に大物の予感、3人で格闘
漁が終盤になると冷たい風が吹き始め、海が荒れ始める予兆。直前に100キロ超の獲物を取り逃がし、どんよりとした空気が漂う。「もうだめか」。そう思ったその時、大量の縄の絡まりが上がってきた。針に掛かったマグロが激しく抵抗した痕跡。大物の予感――。「これが最後だ。絶対釣り上げるぞ」。船内が一気に盛り上がる。
あまりの力強さに、思わず手を離しそうになりながら、記者も加わり3人で慎重に引っ張ると、巨大な黒い塊が海面に姿を現した。船上に引き上げると、丸々と太った約200キロのマグロだった。「アドレナリンが止まらない。だからマグロ漁はやめられない」。3人でハイタッチをして喜びを爆発させた。
興奮冷めやらぬまま帰港、最大の水揚げ
興奮が冷め切らないまま早朝に漁港へ戻った。その日に水揚げされた65本のうち、松山さんのマグロが最も大きかった。
しかし、原油高で船の燃料となる軽油代が1.5倍ほどに上がり、資材の値段も上昇。苦しい状況が続くが、今後収入が増えれば設備投資をしたいという。「このままでは若い人が漁師になりたがらない。県は農業だけでなく、漁業にもっと支援してほしい」と訴える。
それでも「自分の体より大きい獲物と駆け引きするのが楽しいんだ」とロマンを語る。「もっと大きなマグロを釣りたい」。さらなる強敵との出会いを求めて、また漁に出るつもりだ。



