サッカー日本代表の活動を1287日にわたって追いかけた映画「ONE CREATURE」が、6月5日から全国の映画館で上映される。本作は、選手インタビューや日本サッカー協会(JFA)による100時間以上の密着映像、さらに映画監督自身が撮影した練習映像などで構成されている。そこで描かれる日本代表の姿とは――。監督の岸枢宇己氏と企画・プロデュースの矢花宏太氏に話を聞いた。
監督が継続することの意味
映画は、2022年カタールワールドカップ(W杯)で16強敗退した直後から、2026年W杯を迎えるまでの日本代表の軌跡を追う。JFAが撮りためた密着企画「チームカム」の映像と、岸監督が自ら行ったインタビューや練習映像が使用されている。JFAが監修・制作に協力し、インタビューには遠藤航(リバプール)、板倉滉(アヤックス)、堂安律(フランクフルト)、上田綺世(フェイエノールト)、鎌田大地(クリスタルパレス)ら中心選手に加え、森保一監督、JFAの宮本恒靖会長、田嶋幸三名誉会長も登場する。
サッカー日本代表の試合や結果を追うことは容易だが、その舞台裏で何が起きていたのかを知るのは難しい。作品中で最も象徴的なのは、冒頭に挿入された森保監督の人事をめぐるやり取りだ。森保監督はカタールW杯後も続投したが、作品冒頭で「過去最高の結果を出せていなかったから退任すると思っていた」と語る。一方、田嶋名誉会長は「スペインとドイツに勝ったことが続投の最大の要因」と説明する。
自身も幼少期からサッカーに親しみ、テレビ番組ディレクターとして多くのサッカー取材を手掛けてきた岸監督は、冒頭の問いかけの意図を「自分も気になっていたし、サッカーファンも気になっているから、まずその問題を解決したかった」と明かす。作品ではその後、続投した森保監督の下で変化を続ける日本代表の姿が描かれる。
選手と監督の信頼関係
カタールW杯後の4年間、2024年アジアカップ準々決勝で敗れた点を除けば、日本代表の戦績はおおむね良い。一方で、選手やチームの雰囲気には波があり、それでも世界の強豪と渡り合えるのは、森保監督と選手の信頼関係があったからだと作品は感じさせる。上田は「試合に出ていない選手にもベンチスタートの理由を伝えている」、堂安は「仏様ですよ。森保さんのためにやろうという信頼関係がある」と語る。鎌田でさえ「意見が合わないことがあった。自分は問題児だった」と吐露しつつも、「監督のために良い成績を残したい」と話す。
4年間でチームの戦術も大きく変化し、相手に応じて柔軟に戦い方を変える臨機応変なサッカーを身につけた。ボール保持率を高め、主体的に攻撃するというテーマにどう向き合い、成長し、なぜ欧州の強豪と渡り合えるほど強くなったのか――。作品は選手や関係者の貴重な証言と映像でその足跡をたどる。
ガチ紅白戦の迫力
岸監督は、制作期間中で最も印象的な場面の一つに、2025年6月のインドネシア戦直前の紅白戦を挙げる。「試合2日前のガチ紅白戦は本当にびっくりしました」と語る。試合直前の練習は報道陣に非公開のことが多く、外部の目に触れない。しかし、宮本会長が「2日前の練習が最も激しい」と言っていたように、スタメンを争う選手同士が熱を入れて練習する場所だ。岸監督は「2メートル先で選手がプレーしていると、ぶつかる音、走るだけで風を切る音が聞こえる。自分もサッカーをしていたが、ガチガチにプレッシャーをかけられているのに誰もボールコントロールをミスしないので、思わず『なんだ、この人たちは』と驚いた」と明かす。
これまでも日本代表の歴史を深掘りする番組を作ってきた岸監督は、サッカー好きを公言するが、「仕事となると、熱くならずに作業に集中するタイプ」だという。一方で、「今の日本代表は高揚する。どんな形にも変えられるというスタイルのサッカー。今まで日本が目指してきたものよりさらに高いところにあるように思え、それを実現している日本代表は見ていて楽しい」と語る。
三笘がいる理由
5月にリーグ戦で負傷し、代表から落選した三笘薫(ブライトン)。実は、今回の映画でもインタビューに応じ、重要な役割を担っている。W杯開幕に合わせて上映される作品で、W杯に出場しない選手を紹介することに迷いはなかったのだろうか。
矢花氏は「三笘選手は日本代表にとって大事な選手。試合に出なくても、彼の考え方や言葉が今のチームに影響している。彼の言葉を使わないという選択肢はなかった」という。「作品が描いているのは4年間の物語。関わるすべての人が影響して、今のサッカー日本代表があります」と語る。
岸監督も「いろんな取材を重ねる中で、この人たちがいたから今のチームが出来上がったと確信した。三笘選手は特にそう思えた一人でした」と明かす。そして、「鎌田選手が『一番変わったのは三笘選手だ』と言っていました」と付け加える。元々、鎌田は「チームのことより自分が結果を残せるか」と我を出す選手だったが、三笘も同じタイプだった。しかし、ロッカールームで同じポジションの選手に声をかけたり、アドバイスを送ったりする姿が見られるようになり、鎌田も「あ、変わったな」と思ったという。
矢花氏は「代表とともに三笘選手も成長しているように、チームに関わった全員、それを支えるサポーターがいたことで今のチームが出来上がった。だから、作品に登場してもらうことに何の迷いもありませんでした」と語る。
「曲げないで戦って」「同士」
作品で掲げられる「1287日」は、カタールW杯決勝トーナメント1回戦でクロアチアに敗れた日から、今大会初戦のオランダ戦(6月15日)までの期間だ。その道のりを映画に昇華させた2人の胸の内は熱い。
岸監督は「とにかく、今までやってきたことを曲げないで戦ってほしい。世界一になることは簡単じゃないし、信じたいけど結果ばかりを求めたくない。最も長い期間を過ごした監督とチームだからこそ、積み上げてきたものを曲げず、試合をしている人たちが納得して戦い終えてほしい」と語る。
矢花氏は「W杯を戦ってきた日本代表の歴史を振り返っても、互いに信頼関係があり、『大丈夫』と思えるチームができている。道は違うけれど、世界を目指すことや日本のプライドを持って戦うという意味では、彼らは『同士』なんだと思います」と述べる。
日本代表を作品として表現した2人の言葉は、仲間を送り出すような優しさがあった。
映画「ONE CREATURE」は6月5日より全国ロードショー。配給は東映。上映時間118分。



