いじめ動画拡散の背景に「学校不信」 正義の告発か私的制裁か、少年法抵触の懸念も
いじめ動画拡散の背景に「学校不信」 正義か私的制裁か

いじめ動画の拡散相次ぐ 背景に根深い「学校不信」

児童や生徒が暴力をふるう様子を撮影した動画が、「いじめの告発」としてソーシャルメディア上で拡散される事例が全国で相次いでいる。顔や氏名が特定可能な状態で投稿されたり、誤った情報が付随したりするケースも少なくない。背景には、学校や教育委員会に対する生徒や保護者の不信感が存在するとの指摘がある。

大阪市の事例 誤情報も拡散

2026年1月中旬、大阪市内の岸壁で市立中学校の男子生徒が男子児童の首を絞めている様子を映した動画がX(旧ツイッター)に投稿された。生徒の顔がはっきりと映っているこの動画は繰り返し転載され、300万回以上閲覧された投稿も確認されている。投稿には「加害者を特定して人生を終わらせろ」「中学校を特定した」といった過激なコメントが多数寄せられた。

事態を重く見た大阪市教育委員会は1月20日、報道陣に対して事実関係を説明。昨年11月に発生した岸壁での暴行事案を同月中に把握し、いじめ防止対策推進法に基づく「いじめ重大事態」と認定して対応していたことを明らかにした。市教委は「被害者が精神的苦痛を感じている」として、動画の拡散中止を呼びかけた。

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さらにSNS上では、誤った情報も拡散された。暴行を行った男子生徒の在籍する中学校について「過去にいじめによる自殺者を出している」との投稿がX上で出回り、100万回以上閲覧された。読売新聞の取材に対し、市教委と中学校は「そのような事実は一切ない」と否定している。

福井県と栃木県の事例

同1月には、福井県内の高校で2023年に撮影されたとされる暴行事案の動画も広がった。この高校によると、暴行を受けた側の生徒が拡散を望んでおらず、警察に相談しているという。

一方、栃木県では1月に県立高校内で男子生徒が別の男子生徒を殴ったり蹴ったりする動画が拡散。この動画がきっかけとなり事案が表面化し、県警は2月に生徒を傷害容疑で書類送検。宇都宮地方検察庁が3月に家庭裁判所送致した。

拡散の構図と専門家の指摘

これらの動画拡散の典型的な構図は、スキャンダルなどを日常的に投稿するアカウントが拡散元となり、匿名のアカウントを持つユーザーが転載を繰り返すというものだ。

SNSの特性に詳しい国際大学の山口真一教授(計量経済学)は次のように指摘する。「拡散する人の大半は面白半分ではなく、正しいことをしていると考えている。しかし、動画は切り抜かれており、事実関係は公的機関の調査を待たなければわからない。正義のつもりで拡散した行為が誰かを傷つけてしまう可能性があるという自覚が必要だ」

いじめ解決を支援するNPO法人「ユース・ガーディアン」(東京)の阿部泰尚代表は、動画拡散の背景について「学校や教育委員会に通報しても、しっかり対応してくれないのではないかという生徒や保護者の不信感が根底にある」と分析する。

少年法抵触の懸念

SNS上では、「少年も大人と同じように実名を公開されるべきだ」という主張とともに、暴行などの動画が拡散されることもある。しかし、少年法61条は、家庭裁判所の審判に付された少年について、「氏名、容貌などにより本人であることを推知できるような記事を新聞や出版物に掲載してはならない」と規定している。

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この規定は、少年は比較的更生可能性が高く、刑罰よりも教育的手段で更生を図るべきだとの理念に基づく。法務省は2021年の参議院法務委員会で、個人のインターネット上の発信も61条の禁止対象に含まれるとの見解を示した。

日本弁護士連合会子どもの権利委員会委員の須納瀬学弁護士は、少年間の暴行動画について「少年法61条に抵触していると考えられる。いじめの被害者がやむにやまれずSNSを使うことと、第三者が投稿・拡散するのはまったく別の行為だ。第三者による私的制裁は不適切だろう」と述べている。

いじめ動画の拡散は、「正義の告発」と「不適切な私的制裁」の境界が曖昧なまま進んでおり、少年法の抵触や誤情報の拡散など、さまざまな課題を浮き彫りにしている。学校や教育委員会への信頼回復とともに、SNS利用者への啓発が急務となっている。