池袋暴走事故から7年、現場に立ち続ける警部の思い
東京・池袋で高齢者が運転する乗用車が暴走し、母子2人が死亡、9人が重軽傷を負った痛ましい事故から、2026年4月19日で7年を迎える。この事故の原因解明を担った警視庁交通捜査課の寛隆司警部(52)は、今も年に2度、3度と現場に足を運び続けている。あの事故と向き合った経験は、寛警部にとって仕事の原点であり、常に自らの使命を問いかける存在となっている。
「交通鑑識」20年の経験で感じた最大の被害
現場に残された痕跡や遺留物から事故の全容を解明する「交通鑑識」に携わって20年。数多くの悲惨な現場を目にしてきた寛警部だが、池袋暴走事故ほど被害の大きさを強く感じた現場はなかったという。
2019年4月19日昼過ぎ。警視庁本部での会議を終えてデスクに戻った寛警部は、テレビに映し出された事故現場の中継映像に釘付けになった。交差点では乗用車が大破して逆向きに停止し、重量のあるゴミ収集車が横倒しになっていた。経験豊富な警部は、この状況が生じるには相当なエネルギーをもった衝突が必要だと直感した。
現場周辺には自転車やバッグ、靴などが散乱し、乗用車の前方は大きく破損。金属製のボンネットが鋭く突き上がるように曲がっている様子から、通行人との衝突の激しさが容易に想像できた。寛警部は「むごい。被害者が受けた苦痛は計り知れない」と当時の思いを振り返る。
被害者への思いが「心の燃料」に
事故から7年が経過した今も、寛警部は定期的に現場を訪れる。そこには単なる調査以上の意味がある。被害者や遺族への思いが、交通鑑識という仕事に対する原動力となっているからだ。
「現場に立つたびに、あの日の光景が蘇ります。しかし、その記憶は決して重荷ではなく、むしろ『心の燃料』なのです」と寛警部は語る。被害者の無念を思う気持ちが、より正確な事故原因の解明へと駆り立て、類似事故の防止に向けた取り組みを強化する決意を固めさせている。
交通鑑識のプロフェッショナルとしての誓い
20年にわたる交通鑑識のキャリアで培った経験と技術を駆使し、寛警部は池袋事故の詳細な分析を行った。その過程で得た知見は、高齢ドライバーによる事故防止策の検討にも活かされている。
「一つの事故から多くの教訓を学び、未来の悲劇を防ぐ。それが我々交通捜査課の使命です」と警部は強調する。池袋の現場で感じた責任感は、日々の業務においても変わることなく、交通安全への貢献という大きな目標へとつながっている。
7年という歳月が流れても、寛隆司警部の胸中にはあの事故の記憶が鮮明に刻まれ続けている。被害者への思いを「心の燃料」とし、交通鑑識の第一線で働く警部の姿は、事故の教訓を風化させないという強い意志の表れである。



