自転車に傘を固定して使う「傘立て」が、存亡の危機に直面している。片手運転をせずに雨や日差しを防げるとして、関西のママチャリ使用者らから長く支持されてきたが、2026年4月の自転車青切符導入に伴い、製造を見合わせるメーカーが出ている。
愛用者の困惑と諦め
大阪府寝屋川市の60代女性は、20年近く前から通勤用の自転車に傘立てを取り付けてきた。「レインコートだと顔に雨がかかるが、傘なら防げる。夏の日よけにも使ってきた」と話す。しかし、4月からの自転車青切符制度導入を控え、同僚の間で「使ったらダメみたいね」と話題になり、使用をやめた。一時は「小さめの傘なら大丈夫らしい」との説を耳にして小ぶりの傘を購入したが、結局あきらめた。「強風時以外は危険とは思わないが、仕方ない」と語る。
メーカーの決断
傘立てを製造する「第一精工」(大阪市東成区)の木田久雄社長は、「最も売れるのは春先から9月まで。日傘の使用がメインです」と説明する。同社はもともと釣り具メーカーで、船に竿を固定する道具と造りが似ていることから、「かさキャッチ」の商品名で30年ほど前から傘立てを手がけ始めた。大阪府中部・南部を中心に年間4万個を販売し、会社の売り上げの約7%を占めていたが、4月から新規の受注・生産を停止している。
きっかけは、自転車青切符制度を伝えるニュース番組で、傘立ての利用者が警察官から使用を控えるよう求められているのを見たことだ。傘で視野が遮られ、風にあおられる恐れが伝えられていた。これまでに商品が原因の事故やけがは把握していないが、「メーカーとしての信頼を損ないかねない」として製造見合わせを決断した。「正直痛いですよ」と木田社長は打ち明ける。
過去のチラシに誤り
しかし、木田社長には納得のいかない思いもある。かつて大阪府警が作成したチラシには、ハンドルの両端から左右15センチまでの大きさの傘ならば許容される、と読める図が載っていたからだ。大阪府警の自転車対策室、橋本鎮彦室長は「10年ほど前に府警が作成した資料と見られる」としつつ、「間違った内容だった」と認める。
法的な位置づけ
警察庁が定める「交通の方法に関する教則」は、運転が不安定になったり、歩行者や他の車に接触したりする恐れがあることなどから、傘立ては「危険な場合がある」としている。警察庁によると、道路交通法は傘立ての禁止を明記していないが、大阪府を含む各都道府県の道路交通規則には「積載物は積載装置から左右それぞれ15センチを超えてはみ出さないこと」といった規制がある。傘立ての場合、「積載物」は傘、「積載装置」は傘の固定器具を指す。つまり、直径30センチ以内の傘なら違反にならない形だが、「それほど小さい傘は現実的には使われないだろうから、通常は違反になる」と担当者はいう。ただ、実際に取り締まるかどうかは「個々のケースの判断」で、指導警告が基本だという。
自転車青切符制度は、自転車の交通違反に反則金を科す制度で、2026年4月から全国で導入された。傘立ての使用が直接の対象ではないが、傘の突出が積載物の制限に抵触する可能性があり、利用者の間で混乱が広がっている。



